「人の温かさに触れることができた」

 彼女は満足していました。

 一方、通信制高校に入学してから3カ月(1学期)も経たずに不登校になった例もありました。現在17歳の女性で、彼女は中学2年のとき、ある教師との関係が理由で不登校になりました。特定の生徒だけを優遇する教師で彼女は冷遇されていました。何をしても努力不足を指摘される日常に怒りや悔しさを募らせ、ついに気持ちが切れて学校へ行けなくなりました。

 彼女は別の道を探すべく、中学3年生なると進級後すぐに「通信高校選び」を始めます。「通信は不登校の子が行くところだ」と知っていたからです。オープンキャンパスの機会などで学校も見学し、「これなれば楽しい学校生活を送れる」と憧れた高校へ入学しました。ところが、ひさしぶりの学校生活に強い緊張感を覚えたそうです。やはり教室に入って授業を受け始めると、中学時代の思い出が蘇ってくるからなんだそうです。

 授業中に「なんでこんなに怯えているんだろう」と自分でも思ったそうですが、周囲を見渡すと同級生は友だちをつくったり、おしゃれをしたりして楽しそうに見えました。

「自分とちがって、みんなは前へ進んでいく」

 焦りが募り、劣等感と自己否定感が募ったそうです。その思いは3カ月で沸点に達し、ついには制服を着たまま玄関で動けなくなりました。彼女は2度目の不登校となり、高校も退学しています。彼女は「自分の気持ちが整理できなくて前に進めなかった」と当時をふり返ってくれました。

 2人とも同じ不登校という背景があります。2人の違いはなんでしょうか。一概に言うことはできませんが、強いて言えば「自分のタイミングで動けたか」だと私は思いました。これまで多くの不登校の人を取材してきましたが、自分の気持ちに正直になって選んだこと、自分が納得して動けたときは、不運が降りてきてもなんとかやっていけます。ところが焦り、罪悪感、周囲からの期待など「他者の眼」を軸にした行動は、やはりうまくいきません。

 高校は大きく分けて「全日制高校」「定時制高校」「通信制高校」と、3つの教育課程に分かれています。全日制高校は、朝から夕方まで通学して授業を受ける形式。いわゆる「ふつうの高校」です。定時制高校は、「夜間」や「昼間」の時間帯に通学して授業を受けるスタイルの学校。全日制と定時制の大きな違いは登校時間です。

 通信制高校というのは、その全体像や傾向を伝えるのが難しい学校です。というのも、学校ごとに仕組みがちがい、さらに、その学校のなかでも細かくコースがわかれているからです。そこで、通信制高校を10年にわたり取材してきた「通信制高校ナビ」運営者・北澤愛子さんにうかがったお話をベースに通信制について書いていきます。

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暗黙のルールもない