■コロナ禍は人種や貧富の差を可視化させる

 久留宮医師がコロナ禍で感じるのは、「日本は医療に関してまだ標準的に治療がなされるケースが多いが、それに比べて海外はギャップが大きい」ということだ。

 人種や地域によって置かれている環境が違い、虐げられた環境にある人もいる。今後は、ワクチンが行き渡らない人たちが出てくることも予想される。

 今回の新型コロナの感染拡大は、世界がつながっていることを日本の人々にも示し、人種や貧富の差を可視化させる一つのきっかけにもなるはずだが、課題もある。

「アフリカなどでは、感染症患者の数を正確に把握するのも難しく、死亡率も非常に高い。ですから、実際には数に出ている以上に感染が広がっている可能性があります。また、南米から米国に流れる難民は、米国に入国できずメキシコに留とどまり、感染者数が増えていく。しかし、日本ではそういったニュースは入ってきません。自分の国や家族の安全は当然大事であり、一人ひとりが感染源、感染の宿主、感染経路の三つをコントロールすることはもちろん重要ですが、世界の状況にも関心をもってほしい。なぜなら、新型コロナを収束させるには、世界的な流行を止める必要があるからです」

 2004年からMSFの活動に参加した久留宮医師。原点は、中学生の頃に見た無医村で活動する医師のドキュメンタリー番組だ。「こんな医師になりたい」と志したはずが、いつしか知識や技術を身につけるためにエネルギーを費やす日々に明け暮れ、もう一度目指すべき医師像を見つめ直すため、一念発起した。

「私自身が、苦難を抱えながらもいきいきと生きている人たちに勇気づけられ、教えられています。施すものではなく、お互いの関係の中で必要とされることをやるのが、医療者の役目。MSFの活動によって、自分を変えてもらったという思いがあります」

 今後、世界は新型コロナという未知のウイルスとともに生きていくことになる。収束の見通しは立たず、感染のリスクや命の危険もあるが、混沌の中でも団員たちは現地に向かう。

「なぜなら、我々を待っている人たちがいて、行けばサポートを受け入れてくれるから。医療を届けられる喜びがあり、彼らの生きる姿からエネルギーをもらう。コロナ禍で困難は増していますが、待つ人に医療を届けることを、我々は決して途切れさせてはいけないのです」

(文・小坂綾子)