今回の研究は、接触感染のリスクを評価し、感染制御の方法を確立させるための大きな一歩となった。

■いま困っている人に、解決策を提供する研究

 研究への原動力は、「できる限り人の役に立ちたい」という思いだ。知的好奇心を満たすための基礎研究ではなく、いま困っている人に解決策を提供できる研究に力を注ぐ。

 新型コロナウイルスがどういうものかわからない中で、インフルエンザウイルスと比較したのも、わかりやすさを重視したからだ。
「インフルエンザよりも耐久力が強いが、消毒薬の効果は同様にあることがわかった。この冬は新型コロナだけがはやり、インフルエンザより耐久力が高いのではという予想がありましたが、その裏付けが取れたかたちです」

 切実に求められている感染制御の研究だが、遅々として進まないのはなぜか。日本には感染症の専門医が少なく、それゆえに魅力に欠け、人材が育たないという悪循環があるからだ。

 そんな中で廣瀬助教は、大学時代から感染症の研究に関心を持ち、3、4年生のときの基礎研究配属では、募集もしていない感染症の研究室に飛び込んだ。

「感染症は、医師の診断や治療がうまくいけば治る可能性が高い半面、失敗すると命に直結し、医師の裁量が大きく出る。その点で早くから感染症の研究に関心を持っていました。学生時代にピペットを握ったことが、今につながっています」

■多分野の知識が必要な、感染制御研究

 感染制御研究の難しさは、複数の要素が絡み合うことにある。抗がん剤の開発や病気の診断であれば、医学や分子生物学が研究のメインの分野だが、感染制御分野は「病原体がなぜ生き残るか」という点を見なければならない。

「飛沫の飛散や感染性粘液の研究は、流体力学などの物理化学の世界。医学と物理化学の両方を知る人間が舵取りをしないと研究は進みません。さらに、医学研究だけではニーズを把握できないため、臨床と研究の両立が重要ですが、多忙な医師が多いため、他分野融合が難しいという現状もあります」

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