ただ、整形外科の分野の疾患である腰部脊柱管狭窄症でも間欠性跛行は起こるため、間欠性跛行の症状があってもASOとは限らないという。

「患者さん自身でASOか腰部脊柱管狭窄症かを見分けるのは難しいですが、傾向で言えば、痛みが出たときに立ったままでも回復するのはASOで、座ったりして体位を変えないと回復しにくいのは腰部脊柱管狭窄症です。ただ、両方を合併されている方も少なくないので、いずれにしても病院に行くのがよいでしょう」(重松医師)

 ASOの診断には、手と脚の血圧を同時に測り、その比率から脚の血流の悪さを、ある程度まで数値化する。ASO患者は脚の血行が悪いので、当然脚の血圧が低いためだ。

 この検査は、会社の健康診断や人間ドックなどでも、希望すれば受けられることも多い。気になる人は定期的に検査するとよいだろう。

 ASOの治療法は、運動療法、薬物療法、バイパス手術、血管内治療の四つに大別される。この内、運動療法と薬物療法は、軽度から重度まで、ほとんどの患者が受ける基本的な治療に位置づけられる。

■進行度に合わせて段階的に治療する

 慶応義塾大学病院外科准教授の尾原秀明医師は、この二つの治療法について次のように話す。

「血管を道路に例えると、ASOは主要な通り道である国道の車線が減少し、渋滞を起こしている状態です。すると、車は脇道にそれていくわけですが、運動療法には、その脇道を発達させる効果があります。薬物療法で主に使われるのはシロスタゾールという薬で、血液をサラサラにする効果もあります。これらを併用することで、国道自体の車線が回復できなくても、ある程度まで渋滞を緩和できます」

 ただ、重症者はこれらの保存的治療だけでは間に合わないし、そもそも運動できる状態でないことも多い。すると、バイパス手術もしくは血管内治療が必要になる。

「バイパス手術とは、血管が閉塞している部位を迂回するために、自身の静脈や人工血管を移植して新たな道を作りだす手術のことです。血管内治療は、カテーテルをつたわせてバルーン(風船)やステント(金属管)を血管内に挿入し、血管を内側から押し広げる治療です。ステントは再び閉塞することがないように血管内に留置します」(尾原医師)

 基本的に、血管内治療は局所麻酔で施行でき、からだへの負担が少なく、バイパス手術は一度に回復する血流量が多いと言われている。どちらを選択するかは、患者の状態を総合的に診て、医師が判断する。

 動脈硬化性疾患は自覚症状のないまま静かに進行するため、沈黙の殺し屋とも呼ばれる。しかし、その恐ろしさの半面、ASOの代表的な危険因子である喫煙、高血圧、肥満、脂質異常、糖尿病などは、自身の生活習慣の改善によって回避できるものでもある。ずっと自分の脚で歩いていくためにも、禁煙し、飲酒、食事には十分注意して生活していきたい。(文・中川雄大)

週刊朝日  2021年2月19日号