研究では50歳以前に発症したバージャー病患者14人を対象に、閉塞した動脈から一部の組織を採取。同時に歯周病の詳しい診断を実施しました。

 その結果、全てのバージャー病患者は歯周病に罹患しており、程度は中等度から重症でした。そして患部の動脈のほとんどから歯周病菌が検出されました。これに対してバージャー病でない対照群からは、歯周病菌は全く検出されなかったのです。

 これらの結果から、石川教授はバージャー病対策として、禁煙と歯周病治療が欠かせないと言っています。

 喫煙はそれ自体、歯周病の最大のリスクとなります。非喫煙者と比べて歯周病の罹患率が5~8倍高いことがわかっています。喫煙によって歯ぐきの毛細血管が収縮したり、閉塞してしまうことで血流が悪化し、歯周病菌が増殖してきたときにこれと戦う血液中の白血球が送り込めなくなることが大きな原因です。つまり、たばこを吸い続けていると、歯ぐきが防御機能を十分に発揮できないということです。

 私が今、いちばん言いたいのは、歯周病と喫煙、どちらも新型コロナウイルス感染症を重症化するリスクであることです。

 歯周病を治さないまま、口の中を細菌だらけにしていると、新型コロナウイルスが入ってきたときに細菌性の肺炎も併発しやすくなり、下手をするとコロナによる肺炎と細菌性の肺炎のダブルパンチとなります。免疫力が落ちていて、細菌を誤嚥(ごえん)しやすい高齢者は特に危険です。

 喫煙とコロナについては、日本呼吸器学会やWHO(世界保健機関)がコロナによる肺炎重症化の最大のリスクの一つであるとして、禁煙を推奨しています。

 喫煙をしている人は気管支の粘膜が傷つけられ、感染に対して防御する力が低下していることのほか、密閉された狭い空間で大勢が喫煙をする喫煙室は「3密」で、コロナに感染しやすい場所ともいわれています。

 バージャー病はもちろん、コロナ対策としても禁煙と歯周病対策に努めることは大事です。なお、歯科では禁煙指導をしているところが多いので、歯周病の検査、治療とあわせて受けるには便利です。まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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