「きっと楽しい中学生活が送れるよ!」とお母さんはY君に声がけをしたものの、母親が受験の結果を残念に思っていることは、Y君にもわかったことでしょう。


 
 そして、3月のある日、母親がY君にクリーニング店へ洋服のピックアップのお使いを頼んだときのこと。歩いて5分程度のお店で、引き取るだけなのですぐに戻るはずが30分くらいかかりました。お母さんが「遅かったね」と声をかけたころ、Y君は「はい、これ」と無造作にクリーニング店の袋を渡しました。

 その中には頼んだ洋服と一輪のマーガレットが。

「このお花どうしたの?」

「行く途中に咲いてた。きれいだったから、あげる」

 そして、クリーニング店からもらった領収書の裏にY君の文字が見えました。

「◯◯校に行けなくてごめんね。でも、中学生活、楽しみだな。今まで応援してくれてありがとう」

 この手紙を読むまでお母さんは、正直、中学受験をしたことを苦々しく思っていました。親として受験校のセレクトを間違えたのではないか、もっとできることがあったのではないか、と後悔の念に押しつぶされそうになった日もあったといいます。けれどもこの日、この手紙を読んで、息子と一緒に中学受験を頑張ったことが間違いでなかったと初めて思ったそうです。

「息子は結果をきちんと受け止めて次に気持ちを切り替えていました。さらに、周囲に感謝をして、それをきちんと表現することができるまでに成長したのだと思います。だから、心から喜ぶことができました。小さくて幼いと思っていた我が子は、もうそこにいませんでした」(Y君のお母さん)
 
 合否の結果は別にして、子どもの頑張る姿を間近で見たり、反対になかなか勉強しないわが子に始終やきもきさせられたり、中学受験を通して子どもと濃密な時間を過ごしたという点においては、どの家庭も同じではないでしょうか。

 そして、受験の熱が落ち着いた頃、わが子がひと回りもふた回りも成長したことに、親は気づかされることが多いようです。中学受験の渦中にいると気付きにくいわが子の成長も、時間が経つと客観的に眺められるようになるのだと思います。(取材・文/スローマリッジ取材班 鶴島よしみ)