Y君は勉強こそはいやがりはしませんでしたが、全国模試の成績が振るわなくても、特に落ち込んだりすることもなく、いつまでたっても他人事の感覚でいるように、お母さんの目には見えたそうです。12月に入るとお母さんは焦燥感に駆られて、合格に少しでも近づくのであればと、空いている曜日に家庭教師もつけ、最後の2か月で塾代も合わせて40万円以上のお金をかけたそうです。

「夫は中学受験には無関心だったため、学校選びも費用に関しても口出しはしませんでした。その代わり、完全な母親と息子の二人三脚状態で受験をのりこえなければなかったんです」(Y君のお母さん)

 いよいよ迎えた2月の本番。早朝、男子校である志望校に向かう子どもたちと付き添いの親を見たときにいやな予感が走りました。受験生はみんなやけに大人っぽく、そして父親が同伴しているところが多く、「頑張ってこいよ!」「うん!」といった男同士のやりとりを交わす姿が目についたそうです。

「わが子の幼さに不安を覚えました。他の受験生とともに校舎に入っていく後ろ姿が、やけに弱々しく見え、もう祈ることしかできない親の無力さを感じました」(同)

 試験を終えて校門を出て来たY君の顔をひと目見て、お母さんは「これはダメだったな」とすぐにわかりました。

 1日目がダメだったとしても、まだ受験は続きます。受験生は第二、第三志望校へと気持ちを切り替えてチャレンジしなければならないのですが、お母さんのほうが初日、第一志望校に落ちたショックからうまく抜けられませんでした。

「息子が寝たあと、気づかれないように泣きました。子どもの前では女優になれ、とよく言われますが、続けて第二、第三志望校も落ちてしまい、平常心ではいられなくなっていたのです」(同)

 名前くらいしか聞いたことのない、学校説明会も一度も足を運ばなかったような学校を受験することになるとは夢にも思わなかったと、お母さんは当時の心境を明かしました。結局、その学校にご縁をいただいたそうです。

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親として間違えたのでは…後悔の念