「車いすでも入れるような広いトイレが導入された当初は、『障害者トイレ』といった名称が主流でした。ですが、『障害者用』の要素が強調されたために、障害者の方からは『差別されているように感じる』との声が挙がりました。それを受けて『みんなのトイレ』など対象を広げた名称に改めましたが、今度は『みんな』が使うようになって、混み始めた。人によっては長く使用する方もいるので、出入り口のところで険悪なムードになったり、本当に必要な方が排泄に間に合わないケースもあったりしたようです」

 現在は「多目的トイレ」の名称が主流だが、「多目的」や「多機能」の呼び名に乗じて、悪用されるケースもある。

「トイレ掃除の担当者と話をしていると、『高校生の男女のカップルが出てくる』という話も耳にします。ほかに、浮浪者の方が住み始めたり、中で昼寝をしたりするケースもある。注意をしても、なかなか聞き入れてもらえないようです。機能を充実させるために大人用のベッドが導入されるようになってからは、悪用される事例がますます広がっています」(同)

 渡部は昨年12月の謝罪会見で、「僕に(多目的トイレを)使う資格はありません」と悲痛な面持ちで語っていた。本人も罪悪感を抱えているようだが、実際に渡部が悪用を助長してしまった可能性もある。

「渡部さんの一件で、社会の倫理に訴えるという良い側面もありましたが、一部の人には『渡部さんのようなことができてしまう』と認知される、負の側面もありました」(同)

 本当に必要な人が、必要なときに使用できるように、「あらぬ目的」で使われなくなることを願いたい。(取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)