彼らはいずれも既婚者で家庭を持つ身である。ピン芸人としての目標を失って、背水の陣で臨んだ『M-1』で意地を見せた。

 また、昨年末の『M-1』では史上最年長のファイナリストが誕生していた。錦鯉の長谷川雅紀である。長谷川の年齢はなんと49歳。頭髪が薄く歯も8本抜けているため、年齢以上に老けて見える。

しかし、そんな彼は底抜けに明るいキャラクターの持ち主だ。『M-1』では10組中4位という結果だったが、十分なインパクトを残した。最近ではコンビで多くのバラエティ番組に出演している。

 また、プライベートで多額の借金を抱えていることを売りにしているたくましいオジサン芸人もいる。岡野陽一と空気階段の鈴木もぐらである。岡野は1000万円以上、鈴木は700万円以上の借金を抱えていて、バラエティ番組などでもたびたびそれをネタにしている。

 彼らはまだ30代だが、見た目のオジサン度数は高めで、ネタの中でも社会不適合者っぽい怪しげな中年男性を演じることが多い。これから年齢を重ねれば、ますますその芸にも味が出てくるだろう。

 オジサン芸人には、第7世代芸人のようなフレッシュさはない。でも、人生経験を重ねたからこそかもし出せる哀愁がある。それが見る人の心を揺さぶる。

 長引く経済低迷に追い打ちをかけるようにコロナ禍が降りかかり、日本中の人々が苦しい状況に追い込まれている。そんな中で、自ら夢を追い、明るくたくましく生きるオジサン芸人たちの姿は、一筋の希望を与えてくれる。オジサン芸人の逆襲が始まった。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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