その要因としてまず大きいのは打者のパワーアップだ。00年夏に智弁和歌山が.412という歴代最高となるチーム打率を記録したが、翌年にすぐ日大三が.427を記録して更新。更に2年後の04年には駒大苫小牧が.448というチーム打率をマークしている。ウエイトトレーニングでパワーアップし、金属バットの利点を最大限に生かして打ち勝つというのがトレンドとなったことがよく分かる。

 これに対抗するために当然投手もレベルアップする必要がある。松坂の登場する前年の97年夏にナンバーワンと言われていた川口知哉(平安→オリックス)の最速は当時142キロだと言われていたが、現在ではいくらフォームや将来性に見るべきところがあっても、この数字で高校ナンバーワンと言われることはないだろう。

 もうひとつ大きいのは投手の分業制が進んだことである。18年の吉田輝星(金足農→日本ハム)が地方大会から甲子園の準決勝まで1人で投げ抜いて物議を醸し、球数制限の導入にも繋がったが、それでも優勝に届くことはなかった。現在のような過密日程で大会を行っている限り投手の消耗は防ぐことは不可能だろう。

 だが春の選抜に限って言えば大谷、福井、東浜、今村などは1人でかなりの割合を投げ抜いて優勝投手となっている。大学経由でプロ入りしたルーキーの村上頌樹(16年春・智弁学園→東洋大→阪神)、野手としてプロ入りした平沼翔太(15年春・敦賀気比→日本ハム)も1人で投げ抜いて優勝投手となっている。春先ということで打者の試合勘も完全には戻っておらず、また試合数も夏に比べると余裕があるという投手に有利な環境が、1人のエースで勝てる余地を残していると言えそうだ。

 ただ将来を考えると、やはり高校生のこの時期に高いリスクをとって1人の投手に負担をかけるのは避けるべきである。2年ぶりの開催となる甲子園大会となるが、新たな時代に沿った形での優勝投手が誕生することを望みたい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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