縁起でもないと言われるかもしれないが、この先何年もヤクルトが優勝と無縁のまま低迷期が続いていったとしたら……。その頃に初めてFA権を取得したスター選手は、それでもこのチームでプレーし続けたいと思うだろうか。

 これは「温かい」といわれるファンについても言えることで、彼らも決してここ2年の結果を良しとしているわけではない。「勝てなくとも“応燕”(※)する」というファンが多いのは事実だが、そんな燕党からも「やっぱり勝ってほしい」、「好きなチームが負けるのは辛い」といった声も聞こえてくる。

 ファミリー体質は大いにけっこう。ただし、やはり勝負に勝つことは重要だし、そのためにはある程度の“投資”も必要になる。それを球団も十分に理解したのだろう。このオフは大きく動いた。

 まずはFA流出の可能性があった山田と7年、石山、小川とはそれぞれ4年の長期契約で引き留めに成功。出来高払いも含めると、3人の契約期間内の年俸は総額で50億円を超えるといわれる。さらに今月で39歳になったばかりのチームの至宝・青木宣親とも、推定で総額10憶円の3年契約を結んだ。

 DeNAからFAとなった井納翔一(現巨人)の獲得はならなかったものの、セ・パで首位打者に輝いた内川聖一(前ソフトバンク)、東大出身の左腕・宮台康平(前日本ハム)など、他球団を戦力外となった選手を積極的に獲得。2017年にブリュワーズで30本塁打を放ったドミンゴ・サンタナと推定1億円超の年俸で契約するなど、3人の新外国人も加えた。

 特筆すべきは、昨年のドラフトで支配下6人のほか、4人の育成選手を指名したことだ。2013年以降、ヤクルトの育成選手は多くても4人だったが、今シーズンは小澤(こざわ)怜史(前ソフトバンク)、近藤弘樹(前楽天)の移籍組を含めて総勢7人に上る。育成コーチも復活させたのは、本気で底上げを目指している証だろう。

 もちろん、これで優勝を狙う態勢が整ったとまでは言えないが、まずは球団史上でも過去に例のない3年連続最下位を阻止し、その先を見据えた地ならしも進めているように見える。大げさに言うならヤクルトは今、生まれ変わろうとしていると言っていい。あの山田、石山、小川との大型契約が象徴的な出来事だった──。近い将来、そんなふうに語られる日が来ることを期待したい。

(※)チーム名(スワローズ=燕)にかけて、ヤクルトファンは「応援」をこう表記する

(文・菊田康彦)

●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。