鉄を濡れたままに放置すると錆びついてしまうことは、例えば、出刃包丁を使った時などによく経験します。鉄は錆びますが、鉄の棒を水に浸して観察すると、水の中に浸かった部分より、空気との境界部分で最も錆びついていることがわかります。このように、鉄は水の助けにより空気中の酸素と反応して、最終的(鉄の酸化物は色々な形が知られています)には酸化第二鉄(Fe2O3)とります。これが赤褐色の錆です。

 少し脱線しますが、この赤褐色の酸化第二鉄は弁柄(べんがら)と呼ばれ、人類になじみ深い顔料(着色に用いる粉末で水や油に不溶のもの)です。身近なものでは、漆の椀、化粧品、神社や仏閣の彩り、樹脂、インキ、フィルムの着色剤をはじめ、道路や遊歩道の赤アスファルト舗装、鉄骨の錆止め塗装、赤レンガなど、また、磁気テープ、テレビ、電話、コンピューターのエレクトロニクス材料に使われています。

 この鉄の酸化反応は基本的に発熱反応(鉄1原子当たり96Kcalの発熱)ですが、錆びるスピードが極めて遅いため熱として感じることはありません。しかし、この錆びるスピードを速くすると熱として感じることができます。使い捨てカイロはこの原理をうまく利用したものです。

 市販の使い捨てカイロは、外袋は空気を通さないプラスチックで、内袋は空気を通す不織布(繊維を熱・機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせる事で布にしたもの、布は繊維を糸にして織ったもの)で作られており、内袋の中には鉄、水(鉄の錆を促進する)、活性炭(微空間に酸素を取り込む)、食塩(鉄の酸化を速める)、高分子吸収剤(食塩水の保持)、バーミキュライト(観葉植物の保水土、微空間に水を保水しサラサラにする)が入っています。

 このように市販のカイロにはいろいろなものが入っていますが、これは酸化反応が一気に起こると熱すぎるし、ゆっくり起これば暖かくなりませんので、これをコントロールするためです。この使い捨てカイロは、安価で使いやすいことなどから現在カイロの主流となっています。

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