●蘇民将来の話がスサノオの茅の輪に

 牛頭天王はまた、日本各地に残る民話に登場する「蘇民将来(そみんしょうらい)」話に登場する武塔神(むとうしん)にも習合している。蘇民将来の話は、長くなるので割愛するがこの武塔神に由来するのが、茅の輪であり六角形をした木の護符である。この牛頭天王を祭る社が、明治時代の神仏分離令を受けて神社とお寺へと分かれてしまった。八坂神社に代表されるように、神社となった社は祭神がスサノオ(素戔嗚尊etc.と表記する)に、お寺となった社は薬師如来を本尊として祭るようになったのである。江戸時代まで各地で「天王社」と呼ばれてきた牛頭天王は明治時代を機に姿を消した。

●今も残る貴重な習合寺・竹寺

 ほとんどの天王社は神社を選択しスサノオを祭神として八坂神社、八雲神社、須賀神社、素盞嗚神社などと名を変えた。また、お寺と神社を分離して(たとえば大田区の自性院と羽田神社)、それぞれ薬師如来とスサノオを祭っている社もある。そんな中、習合神のまま現代まで続くお寺がある。それが飯能市にある「竹寺」である。お寺なので本尊は牛頭天王、本地仏(仏教での別の姿)として薬師如来が鎮座する。明治時代に吹き荒れた廃仏運動を、よくも武蔵国の中で生き延びたと感動すら覚える、大変貴重な文化遺産である。

●丑寅年の守護仏は虚空蔵菩薩

 また、純粋に仏教側から考えると、丑年・寅年の守り神は「虚空蔵(こくぞう)菩薩」となる。虚空蔵菩薩は特に関西ではよく知られる「十三詣り」を行うお寺に祭られている菩薩さまになる。このためか東京に虚空蔵菩薩を祭るお寺はかなり少ない。江戸三虚空蔵として残る亀戸の「寳蓮寺」、品川の「養願寺」、上野・寛永寺の諸堂・両大師のお堂など場所は限られているが、東京から少し離れれば、いくつかのお寺で虚空蔵菩薩が祭られている。昨年から今年、新型コロナという疫病にすっかり世界中が悩まされる年になっているが、牛頭天王あるいはスサノオは疫病退散の神である。まさに新しい年にご挨拶に出向くには、御利益としては最適の神さまと言えるのではないだろうか。ただし、牛頭天王もスサノオも怒らせると怖い、荒ぶる神である。禍いを避けてもらえる程度のお願いにしておいたほうがよいのかもしれないが。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

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鈴子

鈴子

昭和生まれのライター&編集者。神社仏閣とパワースポットに関するブログ「東京のパワースポットを歩く」(https://tokyopowerspot.com/blog/)が好評。著書に「怨霊退散! TOKYO最強パワースポットを歩く!東東京編/西東京編」(ファミマ・ドット・コム)、「開運ご利益東京・下町散歩 」(Gakken Mook)、「山手線と総武線で「金運」さんぽ!! 」「大江戸線で『縁結び』さんぽ!!」(いずれも新翠舎電子書籍)など。得意ジャンルはほかに欧米を中心とした海外テレビドラマ。ハワイ好き

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