そして、その後も要所要所で生命と向き合う機会に接した。試合後に体調が急変、小腸にできた大型の腫瘍のため腸重積、腸閉塞となり緊急手術した。試合中のケガで指が切断しそうになり入院した時は、北朝鮮がミサイル発射した時期が重なった。深く思うことがあり、それら1つ1つが葛西の礎になっている。

「生きて帰るのが本当のデスマッチだと思う。生命というものを実際に感じたから、かもしれない。今では笑い話だけど、その都度、真剣に死を意識した。自分なりに生死に向き合ったので、デスマッチへの考え方にも影響したのかも。リング上で死んでも仕方ないとなったら、その辺のケンカと同じ。俺たちはお客さんからお金をもらっている。無事にリングを降りるのがプロと思い始めた」

「以前はデスマッチは殺し合いで(見ている人を)引かせたモノ勝ち、とも思っていた。無茶してナンボ、死んで当たり前、ケガして当たり前、という考え。でも結婚、家庭を持って、子供が生まれて、考え方は変わった。大ケガをしたり、極端な話、死んだら話にならない。スタントマンがスタントで死んだら、カッコよくないし何も残らない。何があっても手を上げて帰って来るから、カッコいいし輝いている」

 いいパフォーマンスを発揮し、見ているものに伝わるファイトをする。そして生きてリングから降りる。デスマッチにはメンタルと技術そしてアイディアが必要になる。

 メンタルは、経験、生き様から感じた『生命の在り方』が支えている。そしてレスラーとしての技術はもちろん、意表を突くアイディアを生み出すのも欠かせない。自身を客観視しているからこそ、頭を最大限使うことを重視する。

「下からの追い上げや突き上げは、感じる。誤魔化しが効かないファイトをやっている、という部分ではよくやっていると思う。でもデスマッチはリング上の強い弱いだけではない。心技体そして頭という全部ひっくるめた部分では、まだまだ葛西純の領域には来ていない。パワー、スタミナ、スピードなどに関しては正直、超えられている部分もある。でもデスマッチはそれだけではない」

「葛西純の武器は自己プロデュース力、感性。身体能力に関しては持って生まれたものの影響がある。これは何の競技でも変わらない。自分は身体も小さい、マッチョでもない、イケメンでもない。だからこそ頭を使うしかない。葛西のどこに興味を持って会場へ来てくれるかを考えないといけない。どうやってプロレス界でのし上がるかをいつも考えている。食事中でもトイレでも、常にデスマッチのことが頭にある。そこの部分で他の選手は俺っちの足元にも及んでない」

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デスマッチファイターは報われない?