そしてトータルして最もインパクトが強かった投手を一人挙げるとすれば、やはり佐々木朗希(大船渡→2019年ロッテ1位)になる。初めてその投球を見たのは2年夏の盛岡三戦だったが、まず驚かされたのが試合前の遠投だ。センターからライトポール方向に向かって投げていたが、その勢いはこれまで見たことのないものだったのだ。試合でも初回から150キロ以上を連発して2失点完投勝利をおさめているが、この年に3年生だったとしても1位指名は確実だっただろう。

 最初に強烈なインパクトを受けると、二度目以降は見る側のこちらもハードルが上がって物足りなさを覚えることも多いが、佐々木の場合はそのようなことが全くなく、3年春以降も常に衝撃を与え続けてくれたという意味でも印象深い投手だ。3年春の実戦初登板となった作新学院との練習試合では10度を下回る寒い気温の中で最速156キロをマーク。相手のバッターが頭に当たるボールを空振りしてしまうという強豪校の選手ではなかなか見ないシーンもあった。

 そして夏の岩手大会では大谷以来となる公式戦での160キロをマークしたが、その数字以上にまだまだ余力を感じさせるものだった。そしてU18日本代表の壮行試合では投球練習のストレートを水上桂(明石商→2019年楽天7位)がキャッチできないということにも驚かされた。これほどの投手が甲子園常連の強豪校ではなく、地方の県立高校から出てきたということも二重の衝撃である。

 ルーキーイヤーとなった2020年は結局一度も実戦で登板することなくシーズンを終え、将来性を心配する声も聞こえてくるが、体力面の不安さえなければ歴代の投手の中でもあらゆる意味でナンバーワンになる可能性を秘めていることは間違いない。2021年はきっと周囲の不安を払しょくするような鮮烈な実戦デビューを見せてくれることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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