というのも「なぜ私は受験に失敗してしまったのだろうか」「なぜそこからさらに不登校までしてしまったのか」という思いは、私にとってかけがえのない財産になったからです。当初感じていた「悔い」から「問い」に変わったとも言えます。

 私は自分自身の受験失敗や不登校の経験をベースに、『不登校新聞』でたくさんの人に取材をしてきました。10年ほど、受験の失敗を引きずったことは情けなくも感じますが、裏を返せば、取材へのモチベーションが長く続いたことを意味します。長く取材を続けたことで、『不登校新聞』では編集長となり、ほかのメディからも取材を受けるようになりました。直近3年間で100回を超える取材を受けています。もちろん、苦しいこともあればうまくいかないこと多いのですが、いま現在は、悪くもない人生だなとも感じています。

 受験の失敗を機に、よりよい人生が待っていたのは私だけではありません。女優・東ちづるさんも受験失敗を機に花が開いた人です。東さんにも不登校新聞の取材で話を聞きました。

 東さんは、小さいころから学業が優秀で、成績はいつもトップクラス。親からの期待も強かったそうです。ところが第一志望の広島大学教育学部への受験に失敗。このとき東さんは、母親から「18年間の期待を裏切ったわね」と言われたそうです。とてもひどい言葉だと思いますが、東さんは、その一言で受験へのこだわりを捨て、東京の大学へと進学。卒業後は会社員を経て芸能界に入りました。以後、売れっ子の道を歩む東さんですが、きっかけは大学受験の失敗だったのです。

 もしも、受験に「失敗した」と感じたときは、森毅さんの言葉や東ちづるさんの活躍を思い出してもらいたいと願っています。(文/石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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