年越し番組の放送後は問い合わせが数件あったくらいで上司からも叱責もされなかった。編成は「電波少年的年越しです」とコメントした。

「『電波少年』の初期、あるロケをしたいと当時の上司に話したら”わかった”と言ってくれた。でもその上にも一応報告した。それが何段階も行った果てに”今回はやめとけ”となった。組織ってそうなってる。本当に面白いと思うことは自分で決めると腹を括る。まぁ周りに優しい人、理解者がたくさんいたって言うこともありますが」

 現在の土屋氏は、日本テレビの社員でありながら、他局で番組を作ったり、映画を撮ったり、ライブの演出を手がけたり、幅広い分野でマルチな活動を行っている。もちろん会社に事前に許可は取っていない。

「自分でどんどん進めていいと日本テレビも認めてくれている。許可を取るって自分をアマチュアだと思っていると言うことなんですよ。今のテレビだったら、個人視聴率10%くらいあればいい。そうすると9割の人は見ていなくてもいい。たった1割の人間が面白いと思えばいいわけだから、多数決なんて要らないんです。みんなが多数決をしたがるのは、自分で決めることに自信がないからでしょう」

 上司に相談しないのは、自分がプロであるという意識の表れだという。そんな信念を持つ「テレビのプロ」である土屋氏は、今のテレビをどのように見ているのか。

「昔のテレビって、家帰ったときに何もないと寂しいから、とりあえずつけておくものだったんですよ。そこに社会に対する窓が開かれていて、開けておけば何かが飛び込んでくるっていう感覚だった。でも、今はスマホで自分の都合のいいときに動画を見られるから、その窓を開けておく必要がなくなったんです。

 そうやってテレビの位置づけが変わっているから、本当はビジネスモデルもそれに合わせて変わらないといけない。でも、やっぱり何十年も同じ形でやっているからなかなか変わっていけないんですよね。

 テレ東の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』とか、いくつかのテレビの中で闘っているもの、作ることに全体重がのっているものは好きです」

 普段は全くテレビを見ないという土屋氏。そんな彼が今「テレビの記憶」をテーマにした番組を新たに立ち上げるのは、テレビに対する個人的な思い入れがあるからだ。

「『電波少年W』をやるのは大きい意味での『テレビ愛』なんですよね。過去に向かってのテレビ愛もあるし、現在に向かってのテレビ愛もある。WOWOWの中でそれをやることで、テレビの側面支援みたいなことになったらいいなと思っています」

(取材/お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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