分布の新記録は情報をある程度まとめてから論文化した方がよいと考える研究者の意見もわかるが、人生はいつ何があるかわからない。後回しにしていては論文を書けなくなってしまう状況に陥るかもしれない。また、日本では都道府県別に魚類相を調査している研究者がいるので、新たな都道府県で見付かった記録は速報的に論文にしてあげた方がその人達の研究の役に立つ。詳細な分布は魚図鑑や総論をつくる時などにまとめればいい、と私個人は考えている。

 日本近海でウシマンボウが初めて確認されてから15年が過ぎたが、まだまだ未確認の都道府県は多い。沖縄から北海道まで幅広い地域から記録があるので、ウシマンボウは全国各地に出現しているはずだ。私は未確認地域を1つずつ確認済みに塗り替えていき、ウシマンボウが全国各地に出現していることを証明したい。ここで挙げていない都道府県でウシマンボウが漁獲された時は、ぜひ写真や情報を頂けると私はうれしい。

■釧路のウシマンボウは現在の北限記録

 ちまちまと頑張って論文を出してきたなぁと、これまで報告してきたウシマンボウの記録を思い出と共に再確認したところ、北海道からの記録はまだ2014年に出版された論文の1個体しかないことがわかった。その個体は2014年8月14日に函館市古部漁港沖で漁獲され、あまりにインパクトのある巨体の写真に、当時マイナーだったウシマンボウの名を一気に全国に知らしめるきっかけになった重要な個体だ。その時、漁獲現場にいて、ウシマンボウと判断されたのは、今回の論文の共著者の一人でもある桜井教授。本当に縁とは不思議なものである。

 これまでのウシマンボウの日本北限記録は函館市の1個体だったため、今回の釧路の個体は、北海道2例目、また北限記録を更新することに繋がった! ウシマンボウがどこまで北上可能なのかはまだよくわからないため、今後も夏季は北海道からの情報に注目したい。

 今回のようにニュース映像が生物の基礎研究に貢献するという事例は今後も起こりうると想定されるので、メディアと研究者が協力して新たな発見ができるような体制になれば理想的だと思う。

【主な参考文献】澤井悦郎・田村佑輔・桜井泰憲.2020.写真に基づく北海道2例目および北限更新記録のウシマンボウ.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 3: 47-50.

●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やYouTubeで情報発信・収集しつつ、来年以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。