NHK釧路放送局が撮影した映像の中に写っていたウシマンボウ(2020年9月16日、釧路沖の定置網で漁獲)(C)NHK(日本放送協会)
NHK釧路放送局が撮影した映像の中に写っていたウシマンボウ(2020年9月16日、釧路沖の定置網で漁獲)(C)NHK(日本放送協会)
マンボウ属3種の外観的特徴と識別点。ウシマンボウは他の2種より体が大きくなり、凸凹する(C)澤井悦郎
マンボウ属3種の外観的特徴と識別点。ウシマンボウは他の2種より体が大きくなり、凸凹する(C)澤井悦郎

 推し魚が主役になれる年があるのはいいものだ。今年は丑年。干支にちなんで12年に一度のウシマンボウMola alexandriniを推しまくれる年である! 前回のコラム<今年は丑年! 干支にちなんで世界一重い硬骨魚「ウシマンボウ」を見に行こう!>でもウシマンボウを推しまくったが、早速新しいウシマンボウの論文が去年のクリスマスに出版されたので、最新情報をお届けしよう。

【写真】体重2t!ウシマンボウの剥製

■ニュース映像に紛れていたウシマンボウ

 2020年11月下旬。「釧路にマンボウ!? 海洋熱波が変える漁業web」というニュースが配信された。マンボウ類に関するニュースだ!と思って喜々として拝見すると、ニュースに使われているマンボウ属の映像の中に、頭部が明瞭に隆起した個体がいた。これは……ウシマンボウじゃないのか? しかし、ニュースにはウシマンボウとは書かれていない。何度も写真を見直して、ウシマンボウの可能性が高いと判断した私は、詳しい情報を知りたいと思い、ありとあらゆる伝手を駆使して、このニュースを書いたNHK釧路放送局の田村佑輔記者に連絡を取った。普段取材する側の記者も、まさかニュース映像を見た研究者から逆取材をされることになろうとは思ってもいなかったことだろう。

 ニュースに使われた映像は写真ではなく動画だったとのことで、動画から切り抜きしてもらった他のアングルの映像を確認……すると、ウシマンボウの特徴である明瞭な頭部の隆起、下顎下の隆起、波型の無い舵鰭(尾鰭に見える鰭)の3点が確認できたので(詳細は下記参考文献を参照)、ウシマンボウで間違いないと確信した(マンボウ属3種の外観的特徴と見分け方は本記事の画像を参照)。

 本個体の漁獲日は2020年9月16日、場所は釧路沖、推定全長2m以上。漁獲日の漁獲地周辺の海面水温を調べると18~19度で、これまで知られている日本近海のウシマンボウの出現水温範囲内だった。

 しかし、ウシマンボウが釧路近海で漁獲されたという知見は記憶にない。これは論文にすべき案件じゃないか! そう思った私は田村記者とニュースにコメントしていた函館頭足類科学研究所の桜井泰憲教授も巻き込んで、論文執筆に乗り出した。

■これまでの日本近海におけるウシマンボウの分布

 ウシマンボウはおそらく昔からマンボウMola molaと混同されて日本近海に出現していたものと私は考えているが、文献上で確認できた日本最古の記録は1969年である。ウシマンボウが日本近海に出現することが示唆されたのは2005年の2つの論文で、茨城県と宮城県と静岡県からの記録が最初に示された。以降、文献の発表年順でウシマンボウと同定された新記録を都道府県別に並べると(出版時にマンボウと誤同定されていた文献は除く)、東京都・小笠原諸島と岩手県(2006年)、沖縄県(2009年)、千葉県と石川県(2012年)、北海道(2014年)、大分県(2015年)、神奈川県(2016年)、富山県(2017年)、高知県と山口県(2018年)、鹿児島県と長崎県(2020年)となる。

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釧路のウシマンボウは北限記録?