1927年創設の伝統校は、クラブ活動も盛んだ(写真/長谷川拓美)
1927年創設の伝統校は、クラブ活動も盛んだ(写真/長谷川拓美)
中学2年から高校2年までが対象の土曜講座の一例。生徒の世界を広げる内容が並ぶ
中学2年から高校2年までが対象の土曜講座の一例。生徒の世界を広げる内容が並ぶ

 毎年、数多くの生徒を医学部に入学させている高校がある。なぜ、合格を勝ち取れるのか、どんな授業をしているのか。校長先生や進路指導部の先生に、取材をした。4日連続でお届けする第2回目は、灘高等学校だ。

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「清き一票を!」。廊下に貼ってある生徒会長立候補のポスターに、個性があふれていた。

 卒業生数は220人と多くはないが、東京大学理IIIの合格者数は14人、京都大学医学部へは24人が合格した。

■6年のスパンで先生が生徒を指導

「灘には六つの学校がある」という言葉も、有名な話だ。和田孫博校長は、こう話す。

「クラス分けや学級の担任替えは行いますが、1学年7~8人の先生が中学1年から高校3年までの6年間、持ち上がりで指導します。授業はもちろん、生活や進学指導を6年間徹底することが、六つの学校があると
言われるゆえんです」

 高校で学ぶ内容でも中学で教えたほうが生徒のためになる場合は、授業を入れ替える。カリキュラムに自由度を持たせられるのが大きな強み
だ。また、職員室の先生たちの机の配置も学年単位で工夫をこらす。

「呼び名は『谷』。通路をはさんで机を4つずつ並べ、学年ごとに背中合わせで約8人の先生が座っています。相談があるときには後ろを向けばすぐに学年会議ができる。学年担任制の強みは、ここにもあります」

■制服がなく、髪形も自由

「制服があるときちんとしているように見えます。しかし、制服があることで寝坊してもすぐに衣服を身にまとい登校ができる。逆に私服は、色味やセンス、その日の天気など自主的に判断する力が必要となります」
 
 服装や髪形に拘束はないが、不文律はあるという。それは、「灘校生としてふさわしいか」だ。

「灘校という小宇宙の中だけだったら生徒も許される部分がありますが、学校も一つの社会ですから」

 嘉納治五郎が創立し、校是にも柔道の精神「精力善用」「自他共栄」を掲げている。自分だけよくても、他の人が迷惑するようなことはしない。他者の個性を認めることも重要だ。グローバル社会と言われる現代だからこそ、気づきや共感力が必要となるという。

「未知なるものにぶつかったとき、培ってきた自分の力でどう乗り越えていくのかがこれからは大切です」

■自然とあふれる「精力善用」の機会
 
 コロナの影響もあり、2020年5月の連休明けからは、Google Classroomを使って授業を開始。授業後に感想を尋ねると9割以上の生徒から返事が届くなど、生徒の反応はとてもよかった。

 7月にはオンラインでの文化祭を実施した。地学研究部が「砂金採掘」の方法を動画で流すなど、自主性はここにも生かされている。
 
 また、中2から高2までが対象の土曜講座も開催している。医学の話もあるが、海外ビジネスの契約や特許、田植え・稲刈り体験講座など、内容は幅広い。

「教員や卒業生による多様性ある講座を聞いて、自分の世界を広げていってほしいと思います」

「精力善用」(自己の持てる力を最大限に活用する)の機会が、灘校には自然とあふれている。
(AERAムック編集部・長谷川拓美)