写真はイメージです(C)GettyImages
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 カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く連載「男と女の処世術」。今回のテーマは「モノ化する夫婦関係」。自分に限ってそんなことはない――そう思いたいところですが、実は社会構造の変化でこの傾向が加速しているというのです。いったい、どういうことなのでしょうか。

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 2020年は誰もが新型コロナに振り回された年だったと思います。

 カウンセリングではクライアントさんの個別のお気持ちやご事情の話をし、それは一つとて全く同じお話はないのですが、大勢の方とお話ししていますので、時代の変化を感じることもあります。2020年とこの20年間を振り返ってみました。

 ミレニアムと騒がれた20年前やそれ以前を思い出すと、妻が夫を夫婦カウンセリングに誘うと、

「俺はビョーキじゃない!」

 と言われたとおっしゃる方が少なくありませんでしたし、私の前でおっしゃる方もいらっしゃいました。でも、今はそんなことはまずありません。

 ほかにも正面切って、

「誰に食わせてもらってると思ってるんだ!」

 と言われたという訴えをお聞きすることも減りました。

 一方、20年前は、妻の方が高年収というのは相当大きな問題で、妻もそれを配慮してわざと年収を下げたり、隠したり(で、何かの拍子にバレて問題になったり)というようなこともしばしば聞きました。でも、最近はそういう話を聞くことはほとんどなくなりました(夫が肩身が狭いという話は聞きますが)。

 育児ではかつて、

「うんちはしょうがないけど、おしっこのおむつの交換ぐらいは手伝ってほしい」

 という話を聞きましたが、今はそういう忖度を聞くことはまずありません。そもそも今は、家事育児を「手伝う」という言葉にカチンとくる方が多いように思います。

 20年経って、社会の価値観が大きく変わったように見えますが、お会いするクライアントさんの年齢層の構成はさほど変わっていないので、社会全体というよりも世代の違いによるものも大きいと思われます。なので、特定の人の意識の変化は、実はこれほどは大きくないとも考えられます。

 個人の意識の変化は、社会の環境の変化の圧力を受けながら、10年、20年という時間をかけてゆっくり変わっていくというのが今までの実態でした。ところが、この1年で私の実感としては、人々の意識に少なくとも10年分、もしかしたら20年分ぐらいの変化が起こったような印象があります。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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夫婦関係で加速する「人のモノ化」