問題発覚後、被害弁護団が一貫して要求してきたのは、物件を引き渡し、残る借金をゼロにする「一律解決」だった。対するスルガ銀行は、多くの銀行員の不正関与がバレたあとも、しばらくは「個別解決」にしか応じない姿勢だった。だが、被害を訴える顧客の数があまりに多いこともあり、昨年半ばには、シェアハウス物件に限って一律での残債全額カットに応じる方針に転換した。今春に約250人、来年には累計で600人超が「借金帳消し」となる見込みだ。

 被害弁護団はその後、シェアハウスに加えて中古1棟マンションや新築区分マンションなどで融資を受けた顧客についても交渉を本格化させ、シェアハウスと同様の解決を適用するよう求めてきた。

 だが、スルガ銀行はこれまで、新築シェアハウスの投資・融資には「特有のリスク」と「定型的な不法行為」があったとして一律解決に応じるが、ほかの物件で同様の対応は取らないとしてきた。

 ただ、昨年5月公表の調査結果では、改ざん・偽造などの不正が確認された不動産投資向け融資7813件のうち、シェアハウスは886件のみ。残る6927件はシェアハウス以外で、融資額はシェアハウスの約4倍の4427億円にも上ることが判明した。

 筆者の取材で判明した分だけを見ても、シェアハウスと同等かそれ以上に悪質な事例が目立つ。

 業者らによると、ウソの家賃や空室率に合わせて、賃貸契約書を偽造するのは日常茶飯事で、銀行員が把握している例もあった。物件を見に来る人の目を欺くため、空室にカーテンをつける偽装もしていた。投資家に本当の空室率や家賃収入を知らせないまま、中古物件を買わせるケースも珍しくない。こうしたケースは拙著「やってはいけない不動産投資」(朝日新書)でも詳報している。

 借金の元本カットは、スルガ銀行が金融庁から求められた顧客対応の一つでもある。ただ、元本カットに応じるか、応じるとしてどれだけカットするかは、行員らの不正関与の度合いなどによって変わるため、個別に事例を見極めるというのがスルガ銀行の基本姿勢だ。

 だが、被害弁護団によると、担当行員が資料改ざんについて把握していたのかどうかを尋ねても、スルガ銀行は顧客本人にも教えていないという。肝心のポイントが明らかにならず、交渉が難航している模様だ。

 スルガ銀行にとっては、中古1棟マンション向けの融資はシェアハウスよりもはるかに規模が大きい。そこで元本カットをなし崩し的に認めていくと、業績への影響も膨らみかねない。一連の不祥事を受けた同行の顧客対応は、ここが最後のヤマ場となりそうだ。

 スルガ銀行は筆者の取材に、シェアハウス以外の物件向けの融資で「元本の一部カットに応じた例はある」としつつ、具体的な件数は明かせない、とした。顧客から行員の不正関与を主張・指摘されれば、必要に応じて銀行側の認識を明かすこともあるが、顧客から尋ねられるだけでは明かしていないという。

(取材・文=朝日新聞経済部記者・藤田知也)