■国内でウシマンボウが見られる施設

 日本近海に出現するウシマンボウは大きいため、国内の水族館で飼育されることはまずないだろう。しかし、本記事の写真に示したように、剥製は4つの施設(神奈川県立生命の星・地球博物館、ミュージアムパーク茨城県自然博物館、アクアワールド茨城県大洗水族館、北九州市立自然史・歴史博物館)で見ることができる。いずれも生鮮時は全長2m以上の大型個体だ。これらすべての剥製も、私の研究チームが論文を出すまではマンボウと思われていた。国内にはまだマンボウと間違われて展示されているウシマンボウの剥製があるかもしれないので、もし見つけたら教えてほしい。

 日本近海では北海道から沖縄まで幅広い地域から記録されているが、ウシマンボウの漁獲自体はリュウグウノツカイ並みに珍しい。正確に計測されているウシマンボウの最大個体は全長332cm、最重量個体は2300kg(世界で一番重い硬骨魚としてギネス世界記録にも認定)で、両個体とも日本で記録されている。いつか2.3トン超えのウシマンボウを計量して、これまでの記録を打ち破りたいと私は密かな野望を抱いている。

■ウシマンボウの最新トピック

 ウシマンボウの赤ちゃん(仔稚魚)が世界で初めて発見されたとして、2020年7月に海外のニュースが話題になった。論文はまだ出ていないようだが、その個体はオーストラリア近海で採集され、DNA解析によってウシマンボウと判明したとのこと。ニュースの写真を見ると本当に金平糖のようで可愛らしい。

 ウシマンボウは一般的に亜熱帯~熱帯の温かい水温を好むのだが、北海道など北の海域にも進出することが知られている。2020年11月に発表された論文では、なんと北海道よりさらに北に位置するノルウェーでも発見されたとのことで、私は結構驚いた。

 日本のトピックとしては、2020年1月に出版された私の論文の中で、2012年に水深550mで掛かったウシマンボウを3時間10分かけてファイトし、釣り上げた凄腕の釣り人がいたことを少し取り上げた。今年はいったいどんなウシマンボウの知見が明らかにされるのか・・・博物館や水族館でウシマンボウの剥製を見た時は、ぜひ、その謎めいた生態に想いを馳せてほしい。今年もよろしく!

【主な参考文献】澤井悦郎・山野上祐介・望月利彦・坂井陽一.2015.日本国内の博物館関連施設に保管されているマンボウ属の大型剥製標本に関する形態学的知見について.茨城県自然博物館研究報告,(18): 65-70.

●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やYouTubeで情報発信・収集しつつ、来年以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。