アクアワールド茨城県大洗水族館(茨城県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長300cm(体重2030kg)。剥製は種の特徴が保たれているのでマンボウと見分けるのは簡単。2020年12月の水族館リニューアルで入口近くに移動された(C)澤井悦郎
アクアワールド茨城県大洗水族館(茨城県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長300cm(体重2030kg)。剥製は種の特徴が保たれているのでマンボウと見分けるのは簡単。2020年12月の水族館リニューアルで入口近くに移動された(C)澤井悦郎
ミュージアムパーク茨城県自然博物館(茨城県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長280cm。剥製は種の特徴が保たれているのでマンボウと見分けるのは簡単(C)澤井悦郎
ミュージアムパーク茨城県自然博物館(茨城県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長280cm。剥製は種の特徴が保たれているのでマンボウと見分けるのは簡単(C)澤井悦郎
北九州市立自然史・歴史博物館(福岡県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長325cmで国内最大のウシマンボウ剥製。剥製は種の特徴が保たれているのでマンボウと見分けるのは簡単。ウシマンボウの標準和名の基準標本(C)澤井悦郎
北九州市立自然史・歴史博物館(福岡県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長325cmで国内最大のウシマンボウ剥製。剥製は種の特徴が保たれているのでマンボウと見分けるのは簡単。ウシマンボウの標準和名の基準標本(C)澤井悦郎
神奈川県立生命の星・地球博物館(神奈川県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長202cm。剥製は外観的な種の特徴が失われているので研究者でもウシマンボウと同定するのは難しい(C)澤井悦郎
<br />
神奈川県立生命の星・地球博物館(神奈川県)のウシマンボウの剥製。生鮮時は全長202cm。剥製は外観的な種の特徴が失われているので研究者でもウシマンボウと同定するのは難しい(C)澤井悦郎

 2021年・・・ついにこの年が来た! 今年の干支は「丑」である。渋川マリン水族館をはじめとして、各地の水族館は干支にちなんだウシの名が付く生き物を集めた企画展を実施している。海の生物でウシの名前が付く生き物と言えば、ウミウシが有名だろう。

【写真】ギネス認定された「世界最重量硬骨魚」

 実は魚類にもウシの名前が付くものがいる。探してみると、ウシエイ、ウシオニハゼ、ウシエソ、ウシサワラ、ウシバナトビエイ、ウシマンボウ、ウシモツゴ、ウシノシタなどが見つかった。そう、マンボウの仲間にもウシの名前を持つ種がいるのだ!

 何を隠そう私も丑年生まれで、今年は年男である。命名時、全く意識していなかったのだが、丑年生まれの私がウシマンボウを名付けることになったのは、ただの偶然とは思えない。以前、<今年もギネス世界記録を保持! 千葉県で漁獲された2300kgの「世界一重い硬骨魚」とは?>でもウシマンボウについて触れたが、新年一発目という事で、改めてここでウシマンボウをご紹介しよう。

■「ウシマンボウ」とは?

 ウシマンボウは私を含む広島大学系列の研究チームが、日本近海に出現することを発見してから、15年以上ずっと追いかけているマンボウ属の魚だ。私の先輩達が2005年に日本近海産マンボウ属をDNA解析した論文を出すまでは、日本近海に出現するマンボウ属はマンボウMola mola 1種しかいないと思われていた。

 その後、マンボウとウシマンボウは別種レベルの遺伝的・形態的差異があることがわかり、「ウシマンボウ」という標準和名は2010年に提唱された。前回の丑年は2009年だったため、惜しくも丑年とウシマンボウを絡めた話題を提供できなかった。しかし、今回はそれができる!

 名前の「ウシ」は牛の角を連想させる本種の隆起した頭部に由来し、東北(特に岩手県)の漁師がこの魚をマンボウと区別して呼び分けていた地方名から標準和名に採用された。

 日本近海のマンボウ大型個体(全長2m以上)は頭部と下顎下は隆起せず、舵鰭(尾鰭に見える部位)に波型がある一方、ウシマンボウ大型個体は頭部と下顎下が隆起し、舵鰭に波型がない。しかし、両種とも小型個体は頭部と下顎下は隆起せず、舵鰭に波型もないので非常によく似ており、研究者でも種を見分けるのは難しい。ちなみに、日本近海のウシマンボウは全長1.2m以上の比較的大きな個体しか見つかっていない。

 ウシマンボウの学名は数年ほど未特定だったが、私の論文で2017年にMola alexandriniと決定した。分類学的再検討の中で、ゴウシュウマンボウと標準和名が付けられていたMola ramsayiと同種であることが判明したが、最終的にこの種の名前は「ウシマンボウMola alexandrini」で決着がついた。ウシマンボウの分類の話を始めると長くなるのでここでは割愛するが、私の著書『マンボウのひみつ(岩波書店,2017年)』『マンボウは上を向いてねむるのか(ポプラ社,2019年)』に発見から学名を特定するまでの詳しい話を書いているので、興味のある方は正月の暇潰しにでも読んでいただけると私はうれしい。

次のページ
国内でウシマンボウが見られる施設は?