仲がよければ問題はない?※写真はイメージです(Getty Images)
仲がよければ問題はない?※写真はイメージです(Getty Images)

「引きこもり」というと、家族と顔を合わせることすらせず、社会との関わりを断絶し、家庭内に不穏な空気が漂っている……そんなイメージがあるかもしれない。しかし、引きこもりにはさまざまなタイプがあり、一見すると仲良し家族というケースも珍しくない。今回筆者が取材したのもそんな家族だ。親が無理やり外に出そうとしたり、精神的に追い詰めたりしないことで、家庭内の平和は保たれていた。ただし取材を進めるうちに、根本的な問題解決へはなかなか進展しない現実も見えてきた。

【グラフ】中高年の引きこもりはこんなにいる!

*    *  *
 いわゆる引きこもりで、実際に自室にカギをかけて閉じこもっている人は多い。食事は廊下に置かれたものをひっそり食べて、家族も含めて他人とはディスコミュニケーション。ところが、家族とは普通に会話をして、日常生活は問題なく送れている引きこもりもいる。

■    働かない弟、見守るだけの両親

 花村美奈さん(45歳・仮名)は、地方都市で会社員として働いている。実家から車で2時間ほどの場所に一人暮らし。趣味は海外旅行。健康で、やりがいのある仕事に就くことができているので、「独身だが、自分はまあまあ幸せだ」と思っている。

 ただひとつの悩みは、実家で暮らす2歳年下の弟の慎吾さん(仮名)のことだ。慎吾さんは「大人の引きこもり」で、もう20年以上、仕事をせず、外に出ることもほとんどない生活を送っている。

 2人が生まれ育ったのは、大きな団地。第2次ベビーブームで同世代の子がたくさんいたため、年齢の違う友達が大勢入り混じって遊ぶようなにぎやかな環境だった。父は出張が多くて家に不在がちだったが、祖父母も近くに住んでおり、母も子も寂しい思いをしたことはなかった。

「両親は勉強しろとうるさくいわず、伸び伸びと育ちました。弟も、高校に入るまではごくふつうの子どもでした」(美奈さん)

 それが高校1年生のある日突然、不登校になった。なぜ行きたくないのか、家族が聞いても弟は何も言わない。休みが1カ月、2カ月と長引くようになり、母親は学校に呼び出されて話し合いをしたが、らちがあかず、そのまま高校を中退することになった。

次のページ
バイトをしても続かない弟