しばはし氏は、土井氏の意見に同意したうえで、こう続ける。

「調停中に対立構造が深まり、別居前よりも関係が悪化しているケースは多くあります。関係を再構築をするためには、相手に正論をぶつけて責めたり追い詰めたりせず、お互いの気持ちを尊重する作業も大切。拳を下げれば相手の態度は次第に軟化するでしょう。たとえば、妻が離婚したい意向が固いにもかかわらず、自分は悪くないから絶対に応じないとかたくなに粘っている間は、妻の心は離れていくばかり。いったん『離婚したいという気持ちはわかったよ』と受け止めると、妻は『初めて私の言うことを理解してくれた』と思えて、心を開き始めることもあるのです。一方で同居親は、子どものために自分の感情と親子関係を切り分けることが必要。共同養育に前向きな姿勢を見せることで相手も穏やかになっていくでしょう」

■「ありがとう」「わかった」を意識して

 しばはし氏によれば、歩み寄りに必要なのは、“感謝”と“尊重”のコミュニケーションだ。

「夫婦の感覚を引きずっていると、つい言い返したり思い通りにしようとしてしまいがちですが、否定せずにまずは『わかった』『ありがとう』と受け止めること。そして、相手を変えようと説得するのではなく、自分自身が共同養育しやすい相手に変わることが結果して共同養育への近道になるのです」(しばはし氏)

 特に男性は「譲歩すること=負け」と捉えがちだが、裁判では関係ないという。

「謝ると調停や裁判で不利になると思い込んで、絶対に謝らない人もいますが、そんなことはないんですよ。虚偽DVなどを主張され、自分にはまったく非がないと思える場合でも『個別の出来事について、相手の言い分を認められなくても、その時の相手の気持ちがそういうものだったかもしれない』などと言い方を工夫すれば、いくらでも謝ることはできると思います」(土井氏)

 子どもがいて離婚する場合、相手に勝つことを目的にしてはいけない。正論を振りかざし、たとえ相手をこてんぱんにやっつけることができたとしても、相手は子どもの親なのだ。子どもの親同士として最低限かかわれる関係性を保つことが結局は、自分も子どもも幸せにする。

 共同親権制度が、共同養育の土台になることは間違いない。しかしそこには、制度だけでは解決できない心の問題が厳然としてある。離婚・別居後の子どもの幸せのために、私たちにできることは何なのだろうか。(取材・文=上條まゆみ)