しかし、こんなふうに生活態度を場面によって切り替えながらも、忘れてはならないものがあります。それこそが「人生の本質」だと思います。それでは、孔子は「人生の本質」をどのように考えていたのでしょうか。

 それは「仁」にほかなりません。「仁」とは、自分の子どもを愛するように、他人の子どもも愛すること。自分の父母を愛するように、他人の父母も同じように愛すること、すなわち「人間への愛情」です。

 孔子は、「門を出(い)でては大賓を見るが如くし」(顔淵第十二)とも言っています。

 この言葉の意味は、「いったん自宅から外に出たら、大切なお客様に会う時のように、敬虔の念や思いやりの気持ちを持ってふるまえ」ということです。敬虔と思いやりこそが「仁」の大事な要素で、これらを行動の中心とすれば、外にいても、家にいても、人から恨まれることはないでしょう。

 さて、ここまで「人生の本質=仁」について考えたならば、相談者さんご自身も、「だらしなさ」が許されることころでは、のんびりされたらいかがでしょうか。

 無理をしすぎると、どこかに歪みが出てきてしまいますよ。

【まとめ】
「だらしなさ」が許される場と、そうではない場を見極める力を養ってあげよう。大事なのは、敬虔と思いやり。

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ  0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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