「小学1年生のとき、同じクラスにいた男の子から『ぶっ殺す』『死ね』と、毎日のように言われてたんです。ずっとずっとガマンしていました」(12歳・女性)

「小学2年生ぐらいから、いじめられていました。『キモイ』とか『ウザイ』とか、言葉によるいじめがほとんどです」(15歳・男性)

 2人ともこれらのいじめが要因で不登校になりました。小2でいじめのピークが訪れるのは「発見しやすいためだ」と見る向きもあります。しかし、30年以上、不登校の子らを支援してきた「フリースペースたまりば」代表の西野博之さんは「困っている子の年齢がどんどん降りてきている」と感じており、いじめの低年齢化を指摘しています。

 西野さんによれば、自分より弱い立場の子どもに暴力を振るうのは、子どもの性格が悪くなったわけではなく、小さいころからストレスを貯めこむ子が増えたからだと指摘しています。その大きな要因が早期教育だといいます。

 幼稚園や保育園のころから、学校に適応するための教育が盛んになり、「手遅れにならないように」と習い事を掛け持ちする子が増えているそうです。西野さんによれば「子どもたちの生きづらさはピークに達している」と。

 子どもたちのいじめが早期教育などによる生きづらさに端を発したものだと感じた父親から話を聞いたことがあります。この父親の娘は、小学校4年生のときにいじめにあい不登校をしました。父親は娘のことで担任に相談すると、驚くような事情を聞いたそうです。

 「担任から話を聞くと、うちの子よりも、いじめのリーダー格の子のほうがたいへんな状況でした。小学4年生なのに、週5日の塾と習い事。さらにそれが終わってからも通信教育。まじめにやっていないと『殴られた』という話も聞きました。両親は共働きで子どもになかなか関われず、猛勉強を押し付け、子どもはストレスの塊のような状況になっていました」(2015年6月1日 不登校新聞)

 父親は「うちの子は俺が面倒を見るから、担任はいじめている子の面倒を見てくれ」と言って、父と娘で家庭で育つ道を歩んだそうです。

■親の不安が子どものストレスに

 子どもを追い詰めるほどの早期教育が流行しているのは「大人が不安だから」だと西野さんは分析しています。親が子育ての完璧さを求め、その成果を子ども自身に対して要求する。大人が不安だから、子どもは大人に弱音を吐き出せず、つらい感情も抱えこんでてしまう。そしてストレスのはけ口は自分より弱い子どもにぶつける。これが「いじめが再生産される構図」なんだそうです。

 では、どうすればよいのか。西野さんは「うちの子は大丈夫」だと思うことが、始まりの一歩だと言います。子どもたちは「あなたは大丈夫」という眼差しに包まれたら、自然と自分自身の頭で考えて動き出す、と。抽象論に聞こえるかもしれませんが、学校のいじめが問題視されてから長い時間が経ちました。問題解決の糸口すら見つからないまま増加も続けています。今の状況を打開にするには、子どもへのまなざしを変えていくこと。これこそ、いじめ解消への道だと私は思っています。(文/石井志昂)

※令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2020年10月22日発表)。また、いじめ件数の呼称は「発生件数」ではなく 「認知件数」 に2006年度から改められている。いじめは第三者からは見えづらく「教員が認知できた件数は真の発生件数の一部である」という認識からの呼称変更。文中では端的に「件数」と省略。

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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