――気持ちを聞いて、受け止めて、話し合って解決するんですね。その方法は何歳くらいから通じるのでしょうか。

まだ片言の2語文くらいしか話さない小さい子でも、こちらの話していることはわかっています。その子の成長に合わせた言葉で伝えてみてください。困ったら、子どもに相談していっしょに考えるんです。例えばお友達とおもちゃの取り合いになったとき、まずは「まだこれで遊びたかったんだね」と気持ちを認める。そのあと「でもお友達も使いたいんだって。どうする?」と問いかけてみる。「貸してあげなさい」は指示ですが、「どうする?」と問いかけることで、主導権が子どもにいきます。そこで自分で考える力や折り合いをつける社会性が身につくのです。指示するばかりでは、そうした力は身につかず、子ども自身が考えるチャンスを奪ってしまう。ブラック校則やパワハラもそうですね。決まり事や力で押し切ることは、相手に考える猶予を与えない行為です。

――言葉や暴力で押さえつけることは、子どもに対するパワハラということですね。

日本には、「しつけ」と称しておしりや手をたたくような文化がありました。自分の子どもだから「たたいてでも言うことを聞かせるべきだ」という考えがまだまだ根強い社会だと感じます。「まだ子どもだから」「わからないから」と、大人が自分の考えを押しつけて上からコントロールしようとしますが、親や大人の考えに合わせること、みんなと同じことをするのが本当に正解だと言い切れるでしょうか。そうとは限りません。暴力ではなく、コミュニケーションで折り合いをつけて解決していく。そして、「あなたはこう考えている。でも自分はこう思うよ」というコミュニケーションができる人に育てていけるといいですよね。

――頭では理解していても、ついどなってしまうのも現実です。

今から「もうたたかない」「どならない」と決めることです。覚悟を決める。それだけでずいぶん違います。それまで子どもをたたくことがあった人から「もうたたかないと決めたのに、つい手をあげてしまった」と相談されたことがありました。話を聞くと、たたかないと決めたのは1年前。これまで1年間もたたかなかったなんて、大きな前進です。イライラして「カーっとしてきた」と思ったら、ゆっくりと深呼吸。3秒で吸って、3秒で吐き出す、を繰り返すと気持ちが落ち着きます。怒りを目の前の子どもにぶつけないよう、その場を離れてトイレに駆け込むのもいいでしょう。窓を開けて空気を入れ替えたり、好きな音楽をかけたり、甘いものを食べたり気分転換になることを探しておく。冷たい水にふれると気持ちが落ち着くので、手や顔を洗ったり、食器洗いや拭き掃除などの家事をするのもおすすめです。

――イライラを子どもにむけないようにするんですね。

イライラするのは、心身ともに疲れて余裕がないときです。もし子どもに向けてしまったら、「ごめんね、ママ疲れてイライラしちゃった。もうしないね」と子どもに正直な気持ちを伝えてみましょう。大好きなママが困っているのを「助けたい」と、力になってくれるかもしれません。家族や周囲に頼っていいんです。疲れた日のごはんはレンチンだっていい。ファミリーサポートやヘルパーさんの力を借りたっていい。カオスのような日常のなかでも「今日は一品、おいしいおかずを作れた」「子どもといっしょにテレビを見て笑えた」など、なんでもいいから1日にひとつでも、「楽しかったね」と家族で笑顔になれることがあれば、今日はハナマルです。

(聞き手/高丸昌子)

◆プロフィール
こうそ・ときこ/NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事ほか。厚生労働省の「体罰によらない子育て推進に関する検討会」委員なども務める。育児情報誌『miku』元編集長。保育士、幼稚園教諭、キャリアコンサルタントなどの資格も持つ。3児の母。