じつは開幕前の段階から、ホンダはこの出張者の移動に頭を悩ませていた。2月3日に横浜港に寄港したクルーズ船ダイアモンドプリンセス号に乗船していた乗客が新型コロナウイルス陽性であることが確認され、その後、船内で感染が拡大していたことが大きなニュースになっていたからだ。

 当初、開幕戦が予定されていたオーストラリアが日本からの入国になんらかの制限をかける可能性が考えられたため、ホンダは2月に「フライトも含めてリスクを最小限にとどめるよう手配を開始しました」(山本雅史/ホンダF1マネージングディレクター)と、万全の準備で開幕戦に臨むことを確認した。

 通常であれば、オーストラリアはヨーロッパからよりも日本からのほうが近いため、開幕戦はいったん日本のHRD Sakuraに寄ってミーティングしてからオーストラリアへ向かっていたが、2020年はイギリスから直接オーストラリア入りすることにした。そのため、出張組となるスタッフは「開幕前からイギリスに渡航してもらって、そこから直接、駐在組メンバーとともらオーストラリアへ移動してもらう方向で調整した」(山本)という。

 ところが、万全を期して向かったオーストラリアGPは中止。さらにヨーロッパに戻った直後にヨーロッパ各国がロックダウン状態となり、出張組スタッフはレースがないままヨーロッパにとどまらなければならなくなった。

 7月にF1は再開されたが、遅れた4カ月分を取り戻そうと3週連続開催を合計4回も実施するなど、超過密スケジュールに。また、依然として日本とヨーロッパとの間で出入国に制限がかかっていたこともあって、多くの出張組はヨーロッパに単身とどまって戦い続けなければならなかった。

「(コロナ禍でスタッフの入れ替えは)ごく少数にとどめなければならず、今年は本当に極端に少ない人数でした。そのため日本からの出張者が予定をはるかに超える長期出張になって、辛いシーズンになったと思います。開幕からいままで、一度も帰ってないスタッフもいます。スタッフ本人だけでなく、支えていただいた家族の皆様にもお礼を申し上げたい」(田辺豊治/ホンダF1テクニカルディレクター)

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