2020年はホンダにとってどんなシーズンだった? (c)朝日新聞社
2020年はホンダにとってどんなシーズンだった? (c)朝日新聞社

 2020年は、世界中が新型コロナウイルス感染症と戦った一年でもあった。世界中を転戦するF1も例外ではなかった。3月13日にメルボルンで開幕するはずだった第1戦オーストラリアGPは開幕直前に、突然の中止。その後、ヨーロッパ諸国が相次いでロックダウンする中、F1は予定していたグランプリを次々と延期または中止していく。F1がシーズンを再開させたのは、4カ月遅れの7月のオーストリアGPからだった。

 この状況の中で、例年以上に厳しい戦いを強いられたのが、ホンダだった。

 F1のチームと、そのチームにパワーユニットを供給するマニュファクチャラーはヨーロッパに拠点がある。これに対して、ホンダは日本の栃木県さくら市にあるHRD Sakuraが開発拠点であり、そこで製作したパワーユニットを前線基地となるイギリスのミルトン・キーンズにあるHRD UKに送り、レースを戦っている。パワーユニットだけでなく、HRD Sakuraからスタッフも「出張」という扱いで現地に送り込んでいる。

 もちろん主要メンバーは出張ではなく、「駐在」という形でHRD UKに常駐しイギリスで生活しているが、家族を日本に残してレースを戦う戦士もホンダには少なからず存在している。これがほかのパワーユニット・マニュファクチャラーであるメルセデス、フェラーリ、ルノーとホンダの異なる環境となっている。

 これはホンダが、実際に「現場」に赴いて「現物」を確認し「現実」を直視した上で問題解決を図るという「三現主義」を大切にしており、開発者が現場を経験することで、次の開発にその経験を役立てる狙いがあるからだ。したがって、ホンダは出張メンバーも定期的に入れ替え、できるだけ多くのスタッフに経験を積ませている。

 ところが、2020年はコロナ禍の影響によって、そのシステムを機能させることができなくなってしまった。国と国をまたぐ移動が制限されたからだ。

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過密スケジュールの中での戦い