――すごい話ですね(笑)。当時、渡辺さんはどのように感じていたのでしょうか?

 あまりに突然だったので、最初はケガなのかなって思っていました。でも、次の日の試合とかは普通に出ているんです。

 それが何試合か続くと、さすがにいろんな噂が聞こえてくるようになりましたね。「具合が悪い」とか、色々理由をつけて出場しないらしいとか…(笑)。

 まあでも、当時は新庄さんのようなクリーンナップを打つ選手が出ないっていうのはチームにとっても自分にとってもラッキーだなとは思っていましたね。当時は、ひちょり(森本稀哲)とかも、そこまで活躍してなかったので。

 ちなみに僕は、新庄さんと何打席対戦していますか?

――対戦成績は通算で6打数0安打3三振です。

 6打席ですか。新庄さん、あきらめ早っ!(笑)。

 6打席なら、2試合くらいですから、もうちょっと対策してきてほしかったですね(笑)。

 今もそうですけど、当時もアンダースローで投げるピッチャーは少なかったので、ある程度対応に時間がかかるバッターは他にもたくさんいました。僕を苦手にしていたのは、新庄さんだけっていう訳じゃありませんでした。

 でも普通はみんな対策を練って、それなりに対応してくるものなんですけど…そこを「試合に出場しない」っていう選択をするのが新庄さんらしい。

 並の選手だったら、絶対許されないですよ。

「打てないから試合に出ない」なんて、普通だったらレギュラーを外されます。

 何打席も対戦を繰り返して、本当に打てない場合は、試合の終盤とかであれば交代みたいなのはまだ理解できますけど、たった6打席ですからね。

――なぜ、そこまでして出場しなかったと思いますか?

 おそらく新庄さんはファンにカッコ悪いところを見せたくなかったんじゃないでしょうか。

 どうせ打ちとられるにしても、150キロのストレートに豪快な空振り三振するのは良いけど、僕みたいな100キロのスローカーブに三振するっていうのは、スイングも中途半端になるし。それが嫌だったんじゃないですかね。

 けど、今となっては、もっと対戦したかったなっていうのが僕の本音です(笑)。

次のページ