また、大阪大の就職実績に新しい特徴が加わっている。外務省専門職員採用試験合格者が急増したことである。これは高い語学力を生かし、関連する地域の社会、文化、歴史などに通じた地域の専門家であり、作家の佐藤優氏の元職として知られる。東京外国語大、大阪外国語大からの採用者が多かったことから、当然、大阪大外国語学部にも引き継がれた。2019年の採用は東京外国語大8人、大阪大7人。

 2009年、関西学院大は聖和大教育学部を統合し、関西学院大教育学部を作った。その前後の入試難易度にも変化が見られた(ベネッセ・駿台模試など調べ)。

 2008年 聖和大教育学部 52
 2010年 関西学院大教育学部 59

 2009年の統合当時、聖和大の在学生は関西学院大に転籍しなかった。つまり、2013年聖和大が廃校になるまで、2008年以前の同大入学者は、関西学院大の学生にはなれなかった。

 2011年には、上智大が聖母大看護学部と統合し、総合人間学部のなかに看護学科を作った。こちらも入試難易度に変化が見られた(代々木ゼミナールなど調べ)。

 2010年 聖母大看護学部 52
 2012年 上智大総合人間学部看護学科 59

 統合時、聖母大の学生は転籍できなかった。聖母大に入学した学生は聖母大卒となり、上智大の学生証を持つことができなかった。

 聖母大の看護師国家試験の合格率は高い水準にあったが、それは上智大になっても変わりはない。

 だが就職先に、上智大らしいグローバルさが見られる。看護学科長は昨年、「ここ数年、航空会社にキャビンアテンダントとして就職する学生がでてきた」と話している。

「緊急時に対応できる看護資格だけでなく、英語力と現場で鍛えたコミュニケーション力の高さが評価されているようです」(「週刊朝日」2019年5月31日号)

 大学が統合すると、学生は自分が通う大学が変わることになる。共立薬科大は慶應義塾大、図書館情報大は筑波大、大阪外国語大は大阪大、などである。学生、教職員のなかにはブランド大学の一員となって喜ぶ者、ラッキーと感じる者が少なくなかったが、愛着のある校名が消えることを残念がる者もいた。

 慶應義塾大と東京歯科大が正式に統合すれば、2020年の東京歯科大歯学部入学生は2023年に4年生になると、慶應義塾大の学生になる可能性が高い。これは思いもよらなかったことだろう。現在の東京歯科大4年生には悔しがる学生がいた。2023年3月までに卒業してしまうので、「慶應卒の肩書がもらえなかった。ああ、惜しい。もっとはやく統合すればいいのに」とこぼしている(歯学部は6年制)。一方、東京歯科大に愛着がある学生、OB・OGのなかには、慶應に校名が変わることに強く反対する者もいる。

 慶應義塾大歯学部誕生について、早稲田大関係者は無関心ではいられない。ある経営陣は「私学のトップの座につけなくなる」と焦燥感を募らせる。

 早稲田大には、医学部創設という長年の夢がある。現総長の田中愛治氏も、総長選挙に「医学部構想」を掲げていた。ゼロからの設立は困難なので、医科大との統合を進めるしかないが、現実は厳しそうだ。

 早稲田大の統合相手として、これまで同大学と研究機関として交流がある東京女子医科大のほか、日本医科大、聖マリアンナ医科大などの名前があがっている。だが、現実味を帯びない。また、先日、東京女子医大が学費の1200万円値上げを発表したことについて、早稲田大関係者はこう話す。

「仮に東京女子医大を統合しても、こんな高い学費ならば人気が出ないでしょう。慶應にはとても勝てないんじゃないかな」

 そもそもこのように統合先の大学名が表に出た時点で、当事者の医科大から反発が起こるだろう。統合はむずかしくなるばかりではないか。

 その点、慶應義塾大は賢かった。共立薬科大、今回の東京歯科大との統合話は、事前に話が漏れることなく突然の発表だった。だれにも悟られることなく、水面下で統合への地ならしが慎重に進められていたのだろう。早稲田よりも慶應のほうが、大学運営についてのビジネスセンスがあるのかもしれない。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫