商売のセンスでいえば、その子さんの死後、会社の業績は低迷。売り上げは右肩下がりで落ちていった。それが、2020年3月期決算では増収に転じた。社長の宇田川氏がやったことの一つは「その子色」をもう一度出すこと。シンボルとしてだけでなく、商売のやり方にもその子色を出した。カタログは、新規会員獲得を狙って手が届きやすいレトルト食品を前に出したり、逆に目玉になるような化粧品やサプリメントを前に出したりしがちだが、献立、食材、化粧品の順番にページを並べ変えた。つまり、レストランから初めて、通信販売、化粧品と拡大していた事業の順番どおりのページ構成だ。

「なじみの会員の方に訴求する効果もありますが、(商売のやり方として)結局、その子さんのやり方が正解だったのです」(宇田川氏)

 さて、話を「その子ライト」と本格的な「その子ブーム」の到来に戻そう。その子ライトとは、あの白い顔をいっそう白くみせる照明のこと。女優やタレントがシミやしわを飛ばす技術として、カメラの外から出演者の顔に光をあてることがある。が、あくまでそれはテレビの視聴者には「ないもの」で、決して映してはいけないもの。

 ところが、だ。浅草キッドの2人はわざとそれを「フレームイン」してしまったのだ。さすがのその子さんも不審に思ったはず。どのように2人は切り抜けたのか。以下、『お笑い 男の星2』を引用させてもらう。
 
 今まで黙っていたことを告白し、正直に、この“狙い”を白状しようと腹を決めた。
そして俺たちは、お白砂の上の下手人のように緊迫した面持ちで清廉潔白に事の次第を敬白すると、その子先生は一拍おいてこう復白した。
「ふーん。その方が見ている方はおもしろいと思うのね。だったらヨロシイわ。そういうことって、あたくしシロートだから、わからないから、ちゃんと言ってね」

 (浅草キッド著『お笑い 男の星座2』より)

 かくして、浅草キッドの2人によって発明された「その子ライト」。すると不思議なことに未来ナースだけなく、他のバラエティーでもその子さんに対するお決まりの演出になっていった。

 そして、その子ライトによって、その子ブームは加速したのだと、かのナンシー関さんが見抜いていた。

「その後、鈴木その子はだれでもイジることができるようになったが、あの頃はアンタッチャブルなバリアの中にいた。じっと見てはいけないような気がした。しかし、慣れた。なぜか。浅草キッドの先兵としての功績もあるだろうが、照明ネタのネタバラシも大きかったと思う。どんどんきれいになってきているのではなく、どんどんこっちが慣れていっているのだ」

(連載「小耳にはさもう」326回 週刊朝日1999年9月17日号より)

 その子ブームの背景として、もうひとつ、言及しておくべきことがある。なぜ「美白の女王」と呼ばれたのか。当時、その子さんと対照的な存在といえば、日焼けした肌で渋谷を闊歩していたコギャルたち。水道橋博士が次のように指摘する。

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ブームには意思を持って乗っていく