ところが、中盤、意外な援軍が現れた。もっぱら男性リポーターたちから出た「復帰」をめぐる質問だ。すでに収録済みと報じられた「ガキ使」の収録について、それが騒がれたから会見したのではという追及に対し、彼は「何も言えない」としか言えなかった。

 このやりとりが延々と続いたことで、この会見の本質、ひいては渡部なりの立場の苦しさが浮き彫りになった。おそらく、この会見は「ガキ使」の件が騒がれたことにより業界側の主導で行われたのだろう。深読みするなら、会見に対する世間の反応を見て、復帰の是非を決めようという狙いがあったのかもしれない。

 とはいえ、ひとりのタレントでしかない立場上、収録に参加したかどうかについてすら「何も言えない」を繰り返す渡部。リポーターから「われわれもガキの使いで来てるんじゃないので」というきつめの冗談まで浴びせられ、汗をかき、涙ぐみ、鼻水をすする姿は、不倫発覚前のクレバーで軽妙でドライなイメージとは真逆なものだった。

 しかし、その姿を気の毒がる声があがったのも事実。会見終了直後にも、女性リポーターのひとりが「言えないって言ってるんだから、もうやめとけばいいのに」と男性リポーターのしつこさを愚痴る声がマイクに拾われていた。

 また、翌朝の「とくダネ!」(フジテレビ系)ではコメンテーターのカズレーザーが、

「記者の方の質問も堂々巡りで、結果的にかわいそうって発信する人が現れてきたので。それが見えたっていうのは、渡部さんにとってもうけもんというか、プラスになるんじゃないですか」

 と、指摘していた。ある意味、リポーター側が悪者になってくれたことで、彼はいくらか救われたのだ。

 ではなぜ、男性リポーターがそこまで追及したのかといえば、男性は不倫より、政治に興味があるからだ。復帰をめぐって行われたテレビ局や事務所の画策を思い切り暴きたかったのだろう。それが結果として、多少の同情を生んだのなら、渡部にとっては不幸中の幸いだ。そもそも、不倫に怒っている人の大半は女性なのだから、女性リポーターたちによる質問が続いたほうが、もっと窮地に追い込まれたかもしれない。

 この撤退戦は、功を焦った男性リポーターたちによって、局面が変わった。ただし、渡部はかろうじて生き延びたということにすぎない。今後についても、白紙になったようだ。何はともあれ「ガキ使」でも復帰できないのだとしたら「不倫、ダメ、絶対」の風潮はさらにエスカレートするだろう。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

著者プロフィールを見る
宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

宝泉薫の記事一覧はこちら