なぜここまで人気なのか。東京駅の目の前という超一等地の立地だけではない。タワマンに住む保護者を惹きつけるのは、その特色ある教育内容だ。

 城東小は、14年から中央区の「理数教育パイロット校」に指定されている。年間35時間のサイエンスタイムが設けられ、早稲田大学理工系学部の実験教室やキャンパスツアーがあるほか、6年生になると、集大成として課題研究を行い、プレゼンテーションソフトを使って発表するという。

「中央区は中学受験する層が3~4割と厚いこともあり、教育に関心の高いご家庭から問い合わせをいただいているようです」(同)

 高級外資系ホテルと同じ高層ビルに入る校舎に、スクールバスで通い、先進的な理数教育が受けられる――。まるで私立小並みの豊かさだが、区の担当者は、「特認校といってもあくまで公立小です。保護者の方には事前に学校説明会に参加し、学校の教育方針をご理解いただいたうえで申し込んでもらっています」と釘をさす。

 前述のとおり、中央区には城東小を含む5校の特認校がある。2021年度入学申し込み状況(当選予定数/申込数)と倍率は以下のとおり。
 
城東(12/164)=13.7倍
常盤(37/111) =3.0倍
阪本(8/70) =8.8倍
泰明(12/50)=4.2倍
京橋築地(4/22)=5.5倍

 入学希望者の多い小学校は、いずれも教育内容に特色がある。日本銀行本店近くにある常盤小は「国際教育パイロット校」として、英語の授業を低学年は週2コマ、3年生からは週3コマ実施。毎日5分間、全校一斉に英語に親しむ「クイックタイム」を設けている。日本橋兜町の阪本小は、東京証券取引所からすぐという場所柄、「金融教育」が盛ん。2018年にアルマーニの制服を採用したことで話題となった銀座の伝統校・泰明小も、画廊巡りや「柳染め」の課外授業など、いずれも保護者の満足度は高く、人気は健在だ。

 特認校制度とは、公教育の質の向上をめざして2000年代前半から広まった「学校選択制」のひとつである。地域のニーズを踏まえた「選ばれる学校づくり」という点で、中央区の取り組みは成功しているようにみえる。都内の学校選択制の実情に詳しい教育ジャーナリストの小林哲夫さんは、「いじめや不登校への対応の不手際で、公教育に対する信頼が揺らぐなか、保護者が学校を選べる制度があるのはよいこと」としたうえで、保護者の意思のみが強く働く「小学校選び」に警鐘を鳴らす。

「豊かな教育内容や、『中学受験に有利な環境か』という視点に加えて、あえて通学時間のかかる学区外の小学校を選ぶ動機の根底には、『特定の階層がいる学校に子どもを通わせたくない』という他者排除の論理も見え隠れします。地域社会に根差し、さまざまなバックグラウンドの子どもが共存する環境で学べるのが、公立小の本来の魅力。『授業中に子どもが騒いで先生が苦労している』『家庭に問題がある子が多い』など、同じマンションのママ友の噂だけで地元の小学校を避けるケースもみられます」(小林さん)

 選んだ小学校が子どもに合わなかった場合にも備えたい。

「本来行くはずだった地元の小学校に戻るのは難しいかもしれません。子どもが行き場を失うことがないよう、保護者、学校、行政は子どもの視点を忘れてはならないでしょう」(同)

 少しでもいい教育環境を求めるのが親心だが、わが子をしっかり見つめ、正しい選択をしたい。

(文/アエラムック編集部・曽根牧子)

【AERA English 特別号】英語に強くなる小学校選び 2020 (AERAムック)

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曽根牧子
編集者/ライター 曽根牧子

朝日新聞出版アエラムックチームの編集・ライター。『AERA English』『英語に強くなる小学校選び』などで教育、英語学習、小学校受験に関する記事を執筆。

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