ケツの穴が極小すぎる。普通に出場すればいいじゃないか。

 神バンドの達者な轟音生演奏をバックに歌い踊るベビメタを初めて見たとき、私は衝撃を受けた。なんだかよくわからないけど口角が上がってしまった。そんな独自のファースト・インパクトをお茶の間にぶつけさえすれば、それでいいと思う。正直、ここ数年の<来日アーティストもどき>戦略の功罪で、市井で生活している人びとはほとんどベビメタを知らないのだから、やったもん勝ちだ。普通に出ればいいのだ。自分の出番だけ最初に演ったらとっとと帰ったり、別の場所から中継したりする姑息な出演パターンは、かえって世界観が矮小化するぞ。

 逆に演歌勢を見習うのはどうだ。演歌の人たちはここ数年、まったく楽曲に合わない無意味な演出を強いられている。歌う本人の死角で武闘や舞踏を集団パフォーマンスされるのは当たり前、天童よしみですら本田望結に踊られたりMattにピアノ伴奏されたりと散々だ。香西かおりなんか、「踊りド素人」の橋本マナミに堂々とダンスされた。しかしBABYMETALの圧倒的な世界観とパフォーマンスをもってすれば、後ろでけん玉ギネス世界記録に挑戦されたってどってことない。

 ちょっとやそっとじゃ揺るがない世界観だから、紅白ベビメタを見逃すな。

 ちなみに個人的には、純国産のベビメタと韓国製のNiziUを見て日韓ポップ観を比較するのが、今年の大みそかのひそやかな楽しみだったりするけれど。
 
◎市川哲史(いちかわ・てつし)
音楽評論家。1961年、岡山県生まれ。80年代から、音楽誌『ロッキング・オン』などで執筆活動を開始。同誌ではX(当時)やBUCK-TICKなど後にビジュアル系と呼ばれるバンドをいち早く取り上げた。独立後は『音楽と人』編集長を経て、2005年に『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』などを上梓。現在は音楽誌『ヘドバン』で「市川哲史の酒呑み日記 ビヨンド」を連載中。