■耳の痛い話をするときに欠かせないコツ

 私も予備校講師になりたての頃は、生徒の人気を失うリスクを恐れて、生徒自身にとって耳の痛い話はできるだけしないようしていました。効果が低そうな勉強法にこだわっている生徒がいても、「がんばっているね」とだけ声をかけていたのです。

 たとえば、テキストの問題を隅から隅まで解き切ろうとする生徒がいます。本人は完璧主義でがんばっています。でも、その努力の仕方は受験対策として非効率的です。仕事であれば、いいプレゼンをするための資料集めに全力を出し、肝心のプレゼン自体は準備不足で本番に臨むことになるといった働き方をしてしまっているようなものです。

 がんばりが無駄遣いになっている状態。それを指摘するのは、話し手としてもしんどいことですし、聞かされる本人にもダメージがあるでしょう。しかし、そのやり方を放置していると、生徒の学力が伸びません。志望校への合格という成果も出なくなります。耳の痛いことを指摘してあげないまま、時が過ぎてしまったことで、中長期的には本人がツラい思いをすることになるわけです。

 ならば、話したときは短期的に嫌われるリスクがあっても、真実を伝えるほうが聞き手の役に立ちますし、中長期的には信頼を得ることができます。

 ただし、聞き手にとって耳の痛い話をするときは、対処法や代替案もセットで話すことが重要です。

 たとえば、完璧主義から無駄な努力をしてしまっている生徒には、「入試は100点満点でなくても合格するよ」と指摘します。そのうえで、「問題集を解いていてわからない難問とぶつかったとき、立ち止まる必要はない。わからないまま飛ばしてしまえばいい。同じ問題集を3周くらいして、最終的に正答率を80%台に持ってくれば問題ない。ゴール地点で100%が必要ないように、そのプロセスでも100%を目指す必要はないよ」と伝えるのです。

 相手の痛いところを指摘するときは、その解決方法も合わせて伝えること。この組み合わせを心がけていれば、一気に聞き手の気持ちを惹きつけることが可能になります。

 相手の可能性を見抜けず、対処法や代替案を出せないのは、話し手のスキルの問題です。対処法や代替案のない頭ごなしの否定やダメ出しは自分を守るためのポジショントークになってしまうと心に刻み、聞き手の側に立って、その人の未来を見据えたフィードバックを行っていくことが大切です。