具体的には、日常的に記入している「頭痛ダイアリー」に基づいて、天候の変化や、仕事におけるストレス後の気が抜けた時など、自分の頭痛が出やすい状況を把握して、医師から処方された薬をタイミングよく服用するなどの対応ができるようになった。以前であれば、薬に頼りがちでいつも頭痛の発症に対して不安に思っていたが、その生活にも変化が生じた。

「頭痛がひどい時は、迷惑をかけてはいけないので、人と約束することもはばかられました。でも、自分の症状をコントロールできるようになってからは、前向きにいろいろなことができるようになりました」

 そして、勝島さんが、最もうれしかったと話すエピソードは、長年つらかった頭痛について、夫が理解を示してくれたことだという。

「坂井先生の外来を受診する時、夫に立ち会ってもらったんです。その時に、坂井先生は私の病状を詳しく説明してくれました。そして、夫は“そんなにつらかったんだね”と私の頭痛のことをわかってくれたんです。うれしかったです」

 勝島さんは、現在も、気候の変化などの要因により、定期的に片頭痛の症状に襲われることはある。しかし、いつどんなタイミングで症状が現れるかを知っているため、大きな不安に苛まれることはない。コロナ禍の今もオンラインでヨガ教室に参加している。

「以前なら、頭痛のせいでできないことばかりを考えていましたが、今はできることから数えて、それをやるようになりました。ですから、もし、いま、頭痛に悩んでいる方がいたら、ぜひ頭痛に詳しいお医者さんを受診して、自分らしい生活を送ってほしいと思います」
 
 現在、勝島さんは,JPAC(頭痛医療を促進する患者と医療従事者の会)の当事者として、同じ病態に悩む人々のために会のイベントで登壇し、自らの経験を話すこともある。
 今や“たかが頭痛、されど頭痛”という考え方は市民権も持ちつつある。

 ある製薬会社が「片頭痛に関する職場での患者さんと周囲の意識調査」というアンケートをおこなった。対象は、仕事を持っている患者300人、職場に片頭痛患者がいる150人、いない150人だった。

 その結果では、仕事に支障の出る片頭痛が発症しても4割強の人は職場の人に知らせておらず、92%が我慢して勤務を継続していたということだった。一方、片頭痛患者のいる職場の人は、79%が欠席に理解を示し、84%が早退・遅刻を許容しているということがわかったという。

「片頭痛の人は責任感が強くて、まじめな人が多いと思います。ですが、無理をせずに職場の人につらさを伝えて、仕事を休んだり、他の人に仕事を任せたりすることを重荷に思わないことも大切だと思います」

 自身の経験から、勝島さんはそうアドバイスをくれた。

(文・伊波達也)

【取材協力】
埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長 坂井文彦医師