引っ越しの日が迫るなか、とうとう老婦人は体調をくずし、入院してしまいました。こういうことは、お年寄りにはよくあることです。愛着があるモノはその人の体の一部。無理に処分を迫ると、本当に体がおかしくなってしまうのです。

 私は老婦人が入院している間に、その家のモノを片づけるようご家族から依頼されました。ご本人がいないのに片づけるのは気が進まなかったのですが、長年のお客さまである息子さんとの関係もあり、また家を取り壊す期限が迫っていたこともあって、息子さん夫婦と相談しながら、モノを整理させていただきました。

■「捨てる」ではなく「寄せる」という発想 

 嫌がったら、無理してモノを捨ててはいけないと私は思います。

 心のよりどころになるモノがあったからこそ、安心して、暮らしていたのです。嫌がるのなら、無理やりモノから引き離す必要はないのです。 

「でもそんなことを言っていたら、全然片づかないではないか。モノを捨てずに、家を整理するなんて不可能だ」と思われるかもしれません。

 でも、大丈夫です。私は捨てるかわりに「寄せる」という大胆な方法を提案します。「捨てる」のではなく、「寄せる」のです。

 たとえばモノが床のあちこちに置いてあったら、とりあえず部屋のかたすみに寄せてみる。あるいは物置部屋をつくり、そこにモノを集めてみる。最悪、家具の後ろや、押し入れが空いていれば、そこに押し込んでもかまいません。

 これなら、誰でも抵抗なく片づけにとりかかれるはずです。「捨てる」「捨てない」でいちいちケンカしたり、悩んだりしなくてすみますし、モノを選別して処分する労力も必要ありません。短時間で部屋の様子が変わります。とりあえず寄せればいいのですから、かなりハードルは低いでしょう。

 なぜ寄せるのかというと、目的は空間をつくりたいからです。この「空間をつくる」というところが、私が考える片づけの第二のポイントになります。「寄せただけじゃ、片づいたことにならない」と思われるかもしれませんが、何はともあれ、やってみることをおすすめします。

 モノで埋もれていた場所が、とりあえずスッキリした空間になるだけで、何かが大きく動き出します。だまされたと思って、まずは寄せて、空間をつくってみましょう。そこから、片づけの劇的な第一歩が始まるのです。