また、マンション建替えの場合、敷地に指定された現行の容積率の範囲内で建築するため、既存よりも小さい規模になることがあります。また、建築費や経費などを考慮すると中古市場の相場よりも低い評価額になってしまうこともあるのです。

 たとえば、1500万円で中古の住戸を購入して1000万円の工事費でリノベした区分所有者にとっては、合計2500万円で物件を買ったことになります。それなのに建替えを前提とした評価額が1000万円ほどにしかならない、ということになれば、その人にとって建替えは財産の減少を意味します。

「そういう人が何組かいたら、管理組合での建替えの合意形成は難しくなります。リノベ再販が盛んになるにつれ、高経年のマンションなどでそうした事例も増えていくのではないかと危惧しています」(同)

 リノベ再販を利用した物件の購入を検討しているのであれば、あとで「こんなはずではなかった」とならないよう、契約前に今後行われる耐震補強工事や建替えの予定を確認しておきたいものです。

「耐震補強の場合は、耐震診断が実施されたら、仲介業者がその旨を事前に購入希望者に説明する義務が生じます。ただし、まだそこまで至らず、耐震補強や建替えなどの“可能性について検討している”段階では、今後まだどうなるとも言えませんし、仲介業者には報告する法的義務もありません。そのため、購入希望者は実情を知る術がないのです」

 旭化成不動産レジデンスマンション建替え研究所・主任研究員の重水丈人さんは、現状をこう説明します。

「ただ、管理組合の側としては、耐震補強や建替えの可能性を理解してもらったうえで新しい区分所有者を迎えたい、というのが本音です」(重水さん)

■合意形成ができなくなる? 管理組合がすべきことは

 購入後に耐震補強があるかもしれないとわかれば、その分の負担金の出費のことも念頭に置いて購入を検討するでしょうし、建替えの可能性が大きいのであれば、購入そのものを見送ることもあるかもしれません。

 少なくとも、「これ以上の出費はできないから耐震補強に反対」とか、「リノベしたばかりなのに取り壊して、しかも評価額が下がる建替えなんて反対」などというような、マンションの再生にかかわる合意形成ができない状態に陥るのを防ぐことにつながります。

 そのため、仲介業者から重要事項調査の依頼があったときには、「管理組合の総会で建替え推進決議が可決されて現在検討中」といった一文を明記するように決めているマンションもあると重水さんは言います。

「それがなくても、買い主のほうから『建替えや耐震補強は検討が進んでいますか』といった具合に具体的に質問したほうがいいと思います。管理会社が状況をよくご存じの場合もあるので、仲介業者さんにぜひ相談してみてください」(同)

 区分所有者がリノベーションを計画する場合は、事前に管理組合の理事長の承諾を得るように定めているマンションがほとんどです。

「その際は、管理組合のほうからも『そろそろ建替えを検討する時期になりますよ、ご承知くださいね』というひと声をかけてあげてほしいですね。情報さえ共有できれば、誤解やトラブルも予防できるはずですから」(同)

(文/渡辺圭彦、監修/旭化成不動産レジデンス マンション建替え研究所)

※週刊朝日MOOK「資産価値を守る!マンション管理・修繕・建替え大全2021」から