そして阿部が引退した今年、筆頭候補となりそうなのがシーズン途中で加入したウィーラーだ。サードが本職の選手ではあるが、楽天時代の2018年と2019年はDHとしても多く試合に出場しており、指名打者としての経験が豊富なことも心強い。そして一昨年と昨年の2年間はいずれもサードの守備についた時よりもDHで出場した時の方が打率、出塁率、長打率全てにおいて高い数字をマークしているというのも好材料だ。巨人に移籍後は慣れないレフトやファーストを守ることが多かったが、打撃に専念することによってより実力を発揮しやすくなることは間違いないだろう。

 もう一人有力な候補となるのがベテランの亀井善行だ。今年は左脚の故障もあって9月下旬から戦列を離れていたが、何とか日本シリーズには間に合い、出場選手の40人にも登録されている。昨年の日本シリーズではチームが4連敗を喫した中でも第3戦で2打席連続ホームランを放つなど一人気を吐いて、敢闘選手賞を受賞した。故障明けという状態で外野を守ることは不安があっただけに、DHで出場が可能になったことはチームにとっても亀井にとっても非常に大きい。昨年見せたような働きに期待だ。

 相手が右投手の時は亀井、左投手の時はウィーラーと使い分けることが予想されるが、場合によっては捕手に守備力の高い炭谷銀仁朗を起用して、打力がある大城卓三をDHに回すということも考えられる。このように全ての試合においてオーダーの幅が出てくることは巨人にとって間違いなくプラスである。

 普段からDH制で戦っているソフトバンクの方がより有利になるのではという声も聞こえるが、指名打者として起用されることの多かったバレンティンとデスパイネの二人が今年は揃って不調ということも巨人にとって追い風と言えるだろう。

 そして原監督は以前からセ・リーグにもDH制を導入すべきと言い続けてきており、その要望が今回の日本シリーズ限定とはいえ思わぬ形で叶ったことで、采配がさえわたることも十分に考えられる。巨人が圧倒的な不利という前評判に変わりはないが、このルール変更の持つ意味は決して小さなものではないはずだ。巨人の、そして原監督の意地がDHの起用から発揮されることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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