「18年9月には、国際的な臨床試験の結果、心不全の抑制のみならず、病状が改善することも示されました。日本国内でも市販後の500例の調査で安全性と有効性が認められました」(林田医師)

 日本では現在、外科手術、心不全治療、カテーテル治療それぞれの症例数が十分で、学会の施設基準を満たした59施設で実施されている。今までに約2500例がおこなわれている。

 高山さんは、18年11月、林田医師を紹介され受診した。

「精密検査の結果、この時点では、マイトラクリップによる治療の対象の条件を満たさず、薬物治療を強化する方針が採られました。しかし、20年4月にマイトラクリップの治療の対象となる条件が拡大され、高山さんの治療も可能となりました」(同)

 高山さんは20年9月、マイトラクリップによる治療を受けた。治療翌日からは院内を歩き、薬物治療の調整など経過を見て、1週間で退院した。

 治療後の高山さんは、「今までの息苦しさがうそのように消えた」と大喜びだった。これまで入退院を繰り返し、会社を長く休むことが多かったが、その心配もなくなったという。

 マイトラクリップは、治療対象の拡大だけでなく、器具自体も進化を遂げている。20年8月には、最初の保険適用時の機種から数えて第4世代にあたる「G4システム」が発売された。操作性の良さとサイズの選択肢が増え、より治療しやすくなった。

 マイトラクリップによる治療は今後実施できる施設数も症例数も増えていくことが期待できそうだ。治療法がさらに周知されれば、より多くの対象患者が治療の恩恵を受けられるだろう。

(文/伊波達也)

【取材協力】
慶応義塾大学病院 循環器内科特任准教授 林田健太郎医師