一方、大本命馬がまさかの敗戦といえば、オールドファンならば「これはびっくり、ダイユウサク!!」の実況でおなじみ、メジロマックイーンが伏兵ダイユウサクに不覚を取った1991年の有馬記念を思い出すところだろう。しかし21世紀以降のG1でひとつを挙げろと言われれば、多くのファンが2005年の有馬記念を挙げるのではないだろうか。

 この年の有馬記念の主役は、なんといっても史上2頭目の無敗三冠馬となったディープインパクトだった。単勝オッズは1.3倍という断然人気。1年の総決算である有馬記念も当然のように勝って無敗を続けると予想したファンは多かった。

 武豊騎乗で後方に控えたディープインパクトは道中でポジションをあげつつ直線でスパート。しかし直線の坂下で先頭に立ったハーツクライを最後までとらえきれず半馬身差の2着に敗れた。追い込み馬のイメージが強かったハーツクライを4番手で先行させたクリストフ・ルメール騎手の好騎乗が光ったレースだった。

 ディープインパクトの勝利を期待していたスタンドからの大歓声は、レース決着とともに戸惑ったようなどよめきに。ガッツポーズを決める誇らしげなルメール騎手とは対照的な異様な雰囲気に包まれていた。

 異様な雰囲気と言えば、筆者が忘れられないのが1998年の天皇賞(秋)だ。この年は希代の逃げ馬サイレンススズカが快進撃。5連勝で7月の宝塚記念を制すと、10月のG2毎日王冠ではエルコンドルパサー、グラスワンダーという無敗の有力4歳馬たちを撃破した。当然のように天皇賞でも人気を集め、単勝オッズは1.2倍まで下がっていた。

 最内から好スタートを切ったサイレンススズカは軽快に飛ばして後続に10馬身以上の差をつける大逃げを敢行。「これは物凄いレースになる……」という予感を誰もが抱き始めた矢先、サイレンススズカは4コーナー手前で突如失速。そのまま馬場の外側へと流れて競争を中止してしまった。

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異様な雰囲気になったレース場…