そんな松方さんとは京都に共通の知人がいて、その人のセッティングで京都で一緒に飲んだことがある。そのときのメンツは、松方さん、北の富士さん、当時横綱だった北勝海、俺の4人。俺も当時は40歳前後で特に酒を飲んでいた時期で、北勝海も現役の横綱だし、北の富士さんも酒が強い。そんな中に入っても、松方さんはみんなと同じペースで飲み続けていたからね。俺は任侠映画の松方さんのイメージしかなかったから、実はちょっとビビっていた(笑)。

 実際にお会いしたら、とてもフランクで気さくな方でね。そのギャップもあってか、すすめられるままに飲んだもんだよ。そしたら俺が最初に酔っぱらってしまった! 最後はフラフラになって、北勝海に抱きかかえられてタクシーに放り込まれたからね。「天龍関、大丈夫ですか? 気を付けて帰ってくださいよ」なんて体重120キロある俺を軽々と持ち上げるんだから、さすが横綱だと思ったのを覚えているよ。その間も松方さんは乱れずにずっと付き合って飲んでいたんだから、かなり酒が強かったね。

 と、ここまでは俺の記憶。一方で松方さんは後年のインタビューで「(酒で)唯一負けたのが天龍源一郎さん」と答えていたそうだ。一緒に飲んだのはそのとき一回だけ。「俺は先に酔っぱらってしまったけど、松方さんは平気で強いな」と思っていたけど、松方さんも実はベロベロで、お互いに「負けた」と思っていたんだね。それを聞いて少しホッとしたよ(笑)。

 俺と松方さんがベロベロになっている間も、北の富士さんはマイペース。人に酒をすすめるけど「バカみたいに飲まれる酒がかわいそうだ」って、自分はゆっくり飲むタイプだからね。それに、こっちは抱えられてタクシーに乗せられるくらいベロベロになっているのに、北の富士さんは俺をからかって「天龍、俺は明日朝イチで東京に帰らなきゃいけないから、朝6時にモーニングコールしてくれ」って言うんだよ。大先輩からそんなこと言われたら冗談でも無視できない。ホテルに帰って一睡もしないで起きていて、きっちり6時にモーニングコールしたんだ。そしたら「いいから寝かせてくれ……」だって。いつもはダンディで憧れている北の富士さんとはいえ、その時ばかりは頭にきたぞ!(笑)

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大横綱の千代の富士が俺と筋肉比べ!