術後に補助療法がおこなわれるケースとして、「リンパ節の外側にまでがんが広がっている場合」や「がんを取り切れていない可能性がある場合」が挙げられるという。

  皮膚や筋肉を移植、舌を再建することも

 口腔がんは首のリンパ節に転移しやすく、その場合は手術の際に首のリンパ節と周辺の組織を切除する「頸部郭清術」をおこなうが、リンパ節の外側までがんが広がっている場合は術後補助療法をおこなうことがある。

「がんを切除する際には取り残しがないよう、口腔がんではがんの周囲を1センチ以上大きく切除しますが、切除したがんの端の部分を顕微鏡で見てがん細胞が見える場合は、がん細胞が残存しているリスクがあると考え追加治療をおこないます」(明石歯科医師)

 手術の方法はがんの進行度により異なる。早期がんでは、がんのある舌や歯ぐきなどの一部を切除する。進行がんの場合は、舌の半分、あるいは全部の切除や、あごの骨の大きな切除が必要になることも。その場合、咀嚼(かむこと)や嚥下(のみ込み)、会話などの機能が損なわれるため、からだのほかの部分から皮膚や筋肉、骨などを移植して再建手術をおこなう。

 術後、食事や会話などの機能がどの程度回復できるかは切除範囲によって異なる。切除範囲が小さい場合は術後も基本的な機能が保たれると考えられるが、大きく切除した場合は、再建手術後ものみ込みや発声・発音のためのリハビリテーションが必要となる。

「最新治療として、あごの骨を失っても歯科インプラント治療により咀嚼機能を取り戻すことが可能なこともあります」(同)

 ただし、再建手術によりあごに骨を移植できた人や骨周辺の軟組織が比較的保たれているなどの条件を満たす必要がある。

■    病院選びのコツは?手術は何科で担うのか

 舌は、前方3分の2を「可動部」、後方の3分の1を「舌根」という。舌根は中咽頭に位置し、そこにできたがんは中咽頭がんとなり、歯科口腔外科では手術できず、頭頸部外科での手術となる。可動部の舌がんや、ほかの口腔がんは歯科口腔外科と頭頸部外科のどちらでも治療が可能だ。

「口腔がんの治療を、頭頸部外科と歯科口腔外科のどちらで受けるべきか迷う患者さんもいるようですが、口腔がんの治療実績がある病院なら、基本的にはどちらでも同等の治療が受けられると考えられます。手術数などの治療実績を確認して病院を選ぶことが大切でしょう」(山下医師)

 病院選びについて、明石歯科医師は「多科・多職種により連携がとれていることも重要」と話す。

「診療科の連携については病院によって異なりますが、当院では必要に応じて歯科口腔外科と頭頸部外科、放射線治療科、腫瘍内科などでカンファレンスを実施しています。舌や歯ぐきの早期病変などは歯科口腔外科だけで対応することもあり、再建手術が必要な場合は移植が専門の形成外科と協働します」(明石歯科医師)

 リハビリにおいては医師、看護師に加え、理学療法士や言語聴覚士、歯科技工士など多職種による連携が重要だという。

「科や職種で『横のつながり』ができていること、治療について丁寧な説明と複数の選択肢を提示した上で、医師と患者が相談しつつ治療法を考えられる病院であることが大事と考えます」(同)

なお、食道や大腸などがんの手術に関しては、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。その一部は特設サイトで無料公開。「手術数でわかるいい病院」 https://dot.asahi.com/goodhospital/

(出村真理子)

<取材した医師>
北里大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授 山下拓医師
神戸大学病院歯科口腔外科教授 明石昌也歯科医師

週刊朝日  2020年11月6日号