乗る前にひと呼吸おいて、乗り込むときにはゆっくりと足を進め、マインドフルに足の裏の感覚と目に入ってくる光景を受け入れます。周りを包み込む感覚で、自分を含めて「この乗り物にいる人みんなが幸せでありますように」というフレーズを唱えます。

 すると不思議と穏やかな気持ちで満員の中に入っていけます。いつもと同じ電車でも、視野が広がり、他の乗客のいろんな顔が見えてきて、満員の乗り物が、雑誌を読んだり音楽を聞いたりしなくても楽しめる空間になります。

■お湯を味わいながら入浴する

 シャワーを浴びながら、お湯が身体にあたり、流れる感覚に気づいていきます。少しずつ温まってくる、きれいになっていく感覚が生じます。お湯から感じるやさしさも味わいます。

 湯船の中では、自分の身体で気になるところに手を当てて、「今日もお疲れ様」といつくしみの気持ちを送りましょう。そのとき、自分の身体にしてあげたいことが思い浮かぶかもしれません。少しマッサージをしてもよいでしょう。身体の中から「ありがとう」という返事があるかもしれません。

 気になることがあって雑念が浮かんで来たら、身体感覚に気づきを戻します。

 ここで紹介したのはあくまで一例で、日常生活の中には、セルフ・コンパッションを実践するチャンスがたくさんあります。忙しい毎日には外からの刺激が多く、こうして、自分が、「いまここで」内側から生じてきている感覚をなおざりにしがちです。

 この「今現在の感覚に戻す」という行為が自然にできるようになってくると、過去や未来にかかわる出来事や感情に振り回されることがなくなり、本来の“いまの自分”を取り戻すことができるのです。