「たくさん薬を飲んでいると、その薬のせいで症状が出ているという場合もあります。なので、一度薬をやめてみて、それでも症状が出るのかを試します。そのうえで、この薬は効く、この薬は効かない、というように試しながら、原因を探っていきます」

 だが、実はこの「薬を処方しない」という判断をするのは、意外と難しいのだという。

「患者さんとしては、症状に苦しんでいるので、やはり早く薬をもらって治療をしたいわけです。薬を出さないと、なかなか納得してもらえないこともあります」

 鈴木医師は、薬中心の診療を防ぐためには、問診をもっと重視するべきだと話す。

 胃腸は、体の中でも特にストレスを感じやすい。つらいことがあったときに「胸が痛む」と表現することがあるが、あれは実のところ、胃の位置する心窩部(しんかぶ、みぞおち付近)が痛んでいるのだという。だから、機能性ディスペプシアを治療するには、患者がどんなストレスを抱えているのかを問診の中で見つけて、ストレスの原因を取り除いていくことも重要になる。  

 大塚さんは、鈴木医師の提案で2週間程度の休薬期間を取った。しかし、休薬期間中も変わらず症状が出続けたため、鈴木医師はまだ大塚さんが服用していない、漢方を処方することにした。すると、これが非常によく効いて、症状が大幅に緩和された。

 このとき、もし漢方と一緒にほかの薬も服用していたら、どの薬が効いたのか分からなかっただろう。飲み合わせが悪く、良い効果も出なかったかもしれない。一度完全にリセットするという意味でも、休薬という判断は功を奏した。

 それから大塚さんは、様子を見ながらだんだんと受診の間隔を延ばしていき、いよいよ薬をやめる段階にまで回復した。

 それから1年後、鈴木医師の元には、受診当時よりも少しふっくらした大塚さんの姿があった。雰囲気も明るくなっていて、すっかり元気な様子だったという。

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薬のおかげで好循環に