本塁打ネタをもうひとつ。2軍の試合で“怒りのヤジ封印弾”を放ったのが、96年4月10日の日本ハム戦だ。

 開幕を2軍で迎え、この日4番サードで出場した一茂は2打席連続三振。打席に立つたびに、スタンドから年輩の男性が「もう辞めちまえ!」「引退しろ!」とヤジりつづける。

 事件が起きたのは、5回の守備を終えた一茂がベンチに引き揚げようとしたときだった。男性がなおも「辞めちまえ!」などとヤジると、ついに一茂も堪忍袋の緒を切らし、「うるさい!黙っとけ!」と言い返した。さらに「この野郎!降りてこい!」。コーチたちが慌てて駆け寄り、ベンチに連れ戻したのは言うまでもない。

 そして、6回の第3打席、怒りをバットに込めた一茂は、左翼席に豪快な弾丸アーチ。度肝を抜かれた男性はシュンとなってしまった。

 その後、新助っ人・マントの不振から1軍昇格をはたしたが、2時間のバント練習を命じた土井正三コーチに「いらねえよ、あんな奴!」の暴言を吐いて出場停止処分に。皮肉にも同年限りで現役引退となった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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