尼神インターの誠子(C)朝日新聞社
尼神インターの誠子(C)朝日新聞社

 9月10日放送の『アメトーーク!』で行われた「若手女芸人」という企画は、今の時代の空気を捉えた画期的な内容だった。ガンバレルーヤ、3時のヒロイン、ぼる塾、薄幸(納言)、サーヤ(ラランド)という売り出し中の若手女性芸人たちが集まり、女性芸人としての生き方について活発な議論が交わされたのだ。

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 サーヤが現代の一般女性の感覚を代弁して、女性芸人が自分の容姿をネタにしたり、ブスいじりを受け入れたりすることについて違和感を表明した。

 ガンバレルーヤの2人は、ブスいじりを否定する昨今の風潮に戸惑いを感じつつも、自分たちがからだを張った「古い笑い」をやっているのではないかと悩んでいると話していた。

 容姿をいじる笑いは、お笑い界では昔から当たり前のように行われてきた。近年では、それをやるべきではないという世間の声が徐々に強くなっている。特に、女性芸人に対して「ブス」や「デブ」といった容姿いじりをすることには、否定的な意見が多くなってきた。

 容姿いじりはすべて許されないのか?  女性に対する容姿いじりだけが許されないのか? 場合によっては許されることもあるのか? 自分で言う場合にも許されないのか? その辺りの細かい論点については、考え方に個人差が大きく、明確な結論は出ていない。なぜはっきりした答えが出ないかというと、お笑いにはルールブックが存在しないからだ。

 人が人を殴って怪我をさせたら傷害罪に問われる。だが、ボクシングの試合でボクサーが殴り合うのを見て、それを犯罪だと非難する人はいない。ボクシングには明文化されたルールがあり、その範囲内で行われる暴力は業務として正当だと認められるからだ。

 だが、お笑いには決まったルールがないため、芸人同士の「いじり」の良し悪しを法律や倫理で判断して裁くのが難しい。

 お笑いにおける唯一のルールは観客の反応である。観客全員が不快に思うような暴言や暴力は、いかなる理由があっても正当化できない。観客の感じ方は時代によって少しずつ変わっていく。お笑いのルールは今この瞬間にも更新され続けている。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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ブスを名乗り人を笑わせてきた尼神インター誠子がブスと決別